『ハヤブサ消防団』(池井戸潤 著)をAudibleで聴いたので作品内容や注目ポイントを紹介します。
小説家 兼 消防団員が挑む連続放火ミステリー
執筆活動が低迷しているミステリ作家、三馬太郎。心機一転、父の郷里ハヤブサ地区に移住すると、成り行きで消防団に加入することに。そんな折、のどかな田舎町で立て続けに不審な火災が起こっていることが判明し…
- 第36回柴田錬三郎賞受賞
- 主演・中村倫也でテレビドラマ化
ミステリ作家vs連続放火犯
のどかな集落を揺るがす闘い!東京での暮らしに見切りをつけ、亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移り住んだミステリ作家の三馬太郎。地元の人の誘いで居酒屋を訪れた太郎は、消防団に勧誘される。迷った末に入団を決意した太郎だったが、やがてのどかな集落でひそかに進行していた事件の存在を知る───。連続放火事件に隠された真実とは?
引用:Amazon/Audibe (太字引用者)
『ハヤブサ消防団』ショートレビュー・注目ポイント

『池井戸作品らしくない』、のどかな集落が舞台の『田園ミステリ』
池井戸作品の代表作といえば『半沢直樹』や『下町ロケット』。
熾烈なビジネスの闘いや、痛快な勧善懲悪的ストーリーのイメージがあります。
対して、『ハヤブサ消防団』は土地柄も人柄も牧歌的。生き馬の目を抜くような攻防戦はありません。
また、登場人物も『白か黒か』というより、複層的で割り切れなさの方が前面に描かれてます。
そんな『池井戸作品らしくなさ』を感じる要素が多々あり、新鮮に感じるファンも多いと思います。
特にaudibleだと会話が方言なので、まずそこが池井戸作品として新鮮です。
閉鎖的な集落らしい、濃い人間関係の中で進行する連続放火事件
都会と比べてハヤブサ地区は人間関係が密で、主人公が消防団に参加したのも、土地の人間として生きていくため。
ハヤブサ地区に移住後に本人も知らなかった血縁が発覚する、という都会では珍しいシーンも度々見られます。
この濃くて複雑な人間関係が、一連の事件の真相にも関わってきます。
また、一つ印象的だったのは会話シーンで出てくる内輪の『ここだけの話』。
絶対に『ここだけ』で済むわけがなさそうな不穏な予感にワクワクさせられます。
主人公の作家・三間太郎の思考に垣間見える、著者・池井戸潤の考え
作中、主人公の作家自身が『作家の特徴』について語るシーンがあります。
その特徴とは『優れた小説家は人間を見る目が確か』ということ。
これは2つの点で興味深いと思います。
一つは、著者・池井戸潤自身の考えも反映してる可能性がある点。
主人公を通して池井戸潤の考えも垣間見えるような気がします。
もう一つは、この作家観は『事件の真犯人を見抜けるか?(もし、太郎が優れた作家なら『疑わしい人物』の虚像も看破できるはず)』と小説のテーマにも関わってくる点。
事件の調査を通して、作家としての力量も計られるところが興味深いです。
中部地方特有のトピックが満載
舞台となってるのは中部地方の岐阜県で、その土地特有トピックがふんだんに盛り込まれてます。
郷土料理の『鶏(ケイ)チャン』や『アブラゲ』の他、居酒屋で普通にスズメバチを食べてるシーンは中々インパクトがあります。
ストーリーと直接関係ない場面でも、その土地特有のトピックが丁寧に描かれ、紹介されています。
事件の背景に見え隠れする『ある組織』の影
公式のあらすじで伏せられてるので伏せますが、事件には『ある組織』が絡んできます。
この設定は出版のタイミング的にかなりタイムリーでした。
(2022年9月。聴けば何の事件かピンと来るはず)
この手の問題は定期的に現実で起こり、フィクションの中でも絵空事では片付けられないリアリティを感じさせます。
『ハヤブサ消防団』作品情報

主な登場人物・人物相関図
※ ネタバレに関わる主な登場人物は含めていません。

詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、正確な表記が不明/誤りがある場合があります。漢字はwikipediaや本を参照。
※ ネタバレに関わる可能性のある人物も記載してますが、ストーリー上、重要なネタバレは含んでいません。
ハヤブサ消防団・他 | |
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三馬太郎 | ハヤブサ消防団団員。 ミステリ作家。亡き父の故郷・中部地方八百万町ハヤブサ地区に移住 |
野々山 勝夫 | 太郎の父親 |
藤本勘助 | 消防団団員。太郎を消防団に誘う。工務店勤務。母 トマコ |
滝井 悠人 | 同・団員。(教師?) |
宮原郁夫 | 同・分団長。工場勤務。60歳位 |
山原賢作 | 同・団員。林業会社経営。宮原郁夫と同級生で犬猿の仲 山原 浩信のおじさん。信岡町長の従兄弟 |
森野洋輔 | 同・団員。役場勤務 |
中西陽太 | 同・団員。大工 |
徳田省吾 | 同・団員。洋品店店主 |
ナガツカ ヨシハル | 八百万町消防団団長。工務店社長 |
賀来 武彦 | 居酒屋『△(サンカク)』主人。消防団・協力団員。女将と2人で営む |
近藤 重春 | 町おこしリーダー。太郎脚本の映像作品を制作 |
笠木 彩 | 町おこしのメンバー。映像クリエイター。2年前に地区に移住 |
矢内 | 町おこしのメンバー。役場勤務・町おこし担当 |
チカマツ | 町おこしのメンバー。役場勤務。観光課課長 |
江西祐空 | 随明寺住職 |
山原 浩信 | 地域の問題児。「ヤクザもんとつるんでる」と噂。行方不明に |
信岡信蔵 | 八百万町町長。ハヤブサ出身で、子供時代苛められてハヤブサ嫌いに。 随明寺の檀家。山原賢作の従兄弟 |
永野誠一 | 警察署長。太郎の親戚、野々山 久則の妻・沢子の親戚 |
ホンダ | ハヤブサ駐在員 |
吉田夏夫 | 郵便局長。60代半ば |
野々山 久則 | 仏壇屋。妻: 沢子。太郎の父の遠縁。永野署長の親戚 |
野々山 カズシゲ | 住人 |
野々山 エイコ | 住人。銀髪の容貌は「西洋の魔女」 |
山原 展子 | 信岡町長の妹 |
信岡 ノブタダ | 信岡町長の父。金貸し |
ヤマカワ トシコ | 山原 展子の友人 |
君津 智世子 | 信岡町長の母の妹 |
トクダ マサナオ | トクダ繊維工業社長。 |
ニシヤマ ショウノスケ | 株式会社ニシヤマ社長。繊維問屋街元顔役。 |
ヤマダ タカヒコ | 1軒目に火災に合った住人 |
トミオカ カズオ | 2軒目に火災に合った住人 |
エジマ ナミオ | 3軒目に火災に合った住人。妻ミワ |
フジカケ | 自治会長。工務店 |
サイリョウ | 祭りのリーダー役 |
サイトウ ナオヒロ | 消防団員 |
ノブオカ トキ | 消防団の協力団員。サンカクの常連 |
スギモト トクイチ | 太郎の近所の住人。定年後移住。犬ニーナ |
セキ | 太郎の近所の住人 |
トクダ老人 | 太郎の近所の住人。70才すぎ。元教師 |
ヤマハラ タカノリ | 元教師。定年 |
地区外の人物 | |
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中山田 洋 | 小説『レモン』編集者。太郎の担当 |
真鍋 | 「タウンソーラー」太陽光発電営業マン |
エダジマ コウタ | 太陽光発電会社代表 |
ハナムラ カズヤ | 映画監督 |
マツバラ | 東京アーツムービー ディレクター。笠木の元上司。 |
アサノ ヤスノリ | 人気脚本家 |
田村富一 | 宗教団体・オルビスを追う記者 |
高斎道春 | オルビス・テラエ騎士団 教祖 |
杉森登 | オルビス・テラエ騎士団 広報 オルビス・テラエ十字軍 総長 |
タチバナ カズヒロ | 高斎道春の右腕 |
タキガワ アスカ | 元騎士団幹部 |
『ハヤブサ消防団』ナレーションについて

ナレーターは『杉山 怜央』氏。
舞台は岐阜県なので、美濃弁を話してるシーンが結構あります。
杉山氏のプロフィールを確認したら、岐阜ではなく東京出身。
ただ、美濃弁は全国的には馴染みがないので、もしイントレーションが正確でなくても気になりにくそうです。
全体的に柔和で理性的な主人公のキャラクターに合ったナレーションだったと思います。
特に愛嬌のある勘助の声色と話し方が良かったです。
あとがき

『ハヤブサ消防団』は池井戸作品の中で再生時間が長めで、登場人物も多いです。
人間関係も結構複雑。
自分はいつも通りメモをとりながら聴きましたが、メモがないと『誰が誰か?』途中でついていけなかった気がします。
でも、Audibleのレビュー読むと普通に楽しめてる人が多いようで、凄いなと変に感心させられました。
著者 | 池井戸 潤 |
ナレーター | 杉山 怜央 |
再生時間 | 15 時間 51 分 |
発行年 | 2022 |
配信日 | 2022/09/05 |
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