『金融義賊』紹介レビュー | 独善的義賊が仕掛ける金融下剋上

日本の小説
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『金融義賊』(エフ著)をAudibleで聴いたので作品内容や注目ポイントを紹介します。

▽ イメージ画像付きであらすじを紹介

画像は私的/商用利用可能な画像生成AIAdobeFirefly)やフリー素材を使用して作成しています。

独善的義賊が仕掛ける金融下剋上

「くたばれ上級国民。そう思ってる人間はきっとごまんといるに違いない。」
「しかし、インターネットで何を言おうが奴らを害することはできない。
電車に放火しても奴らは乗っていない。」
「確かな計画と準備、能力が必要だ。そうしてやっと弱者の牙は強者に届く。」

支店トップの営業成績を誇る証券マン・義田は、日々「上級国民」の資産を増やすべく働いてきた。
しかし、恵まれない環境で育った「俺」は不条理な格差社会を心底憎み、傲慢で怠惰な富裕層を脳内で罵倒する。

10年もの間、ムカつく金持ち共のご機嫌をとってきたのはある目的を果たすため。
その計画もいよいよ実行の時が近い。
格差社会のトップから巨額の財産を奪い、
下層弱者たちにばら撒く。
「俺」が狙うのは富の再分配だー。

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『金融義賊』ショートレビュー・注目ポイント

基本は上記『作品紹介画像』と同じですが、画像に盛り込めなかった内容についても触れてます。
※重要なネタバレなし

格差社会・資本主義の悪弊など現代的な問題に個人的な主人公の視点から深く切り込む

資本主義は構造的に金持ちはより金持ちに、貧乏人は代々貧乏人になりやすい傾向があります。

本作はそんな資本主義の悪弊を超一流の証券マンの視点から色濃く描き出します。

格差社会の敗者ではなく、明らかに勝者側にいる主人公がその社会システムに怒り、一撃を与えるべく事件を画策するところが本作のユニークなポイント。

タイトル「義賊」の意味を考えさせるストーリー

主人公は報酬も社会的信頼も高い証券マン。わざわざリスクを冒した「計画」は自分の利益目的とは考えにくいです。

そこには確かに社会に対する『義憤』が見て取れます。

ただ、義田の言動を追っていくごとに『義賊』というラベリングも訝しまれる、一筋縄ではいかない人物像が浮かび上がってきます。

一人称「俺」の苛立ちに満ちた独白で物語が進む

異様な意志と情念がこもった語りっぷりは、それ自体が読む者を強く引き込みます。

登場人物と距離を置いた3人称の語りとは一味違う、独白の「熱」がこの作品の大きな魅力です。

偶然のきっかけで義田の計画に関わってくる、ある犯罪グループ

義田は単独で計画を実行する予定でしたが、半ば偶然、ある犯罪グループが関わることになります。

そのグループの構成員は様々な事情で社会からはみ出した若者で、『仕事』は『投資詐欺・闇バイト斡旋・グレーなネットビジネス』など。

この犯罪グループも行動原理として義田と共鳴する『正義』を掲げてるところも興味深いです。

著者のエフ氏は元証券マン、キャリアコンサルタント、人気youtuber

本作はyoutubeで公開→書籍化の後にオーディオブック化。

一般的な小説とは異なる、異色の出自の作品です。

元証券マンが描いた証券マンの物語という点も興味深さがグッと増します。

『金融義賊』作品情報

主な登場人物・人物相関図

『金融義賊』主な登場人物・人物相関図

義田のFA職とは金融全般のアドバイザーで『正社員ではなく、給与に占める成果報酬の割合が高く、転勤のない雇用形態』が特徴。

作中の説明ではFA職は大学卒業資格が不要なため、大学中退の義田でも一流企業に採用。なおかつエリートコースにのった支店長よりも高給取りという状況になってます。

詳しい登場人物まとめ

オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。

帝日証券社員
義田ヨシダ主人公。寺川支店営業。優秀な証券マン。FA(ファインナンシャルアドバイザー)職。
恵まれない生い立ちで富裕層と格差社会を憎む。大学中退。
下柳寺川支店営業。義田の後輩。義田と似た境遇のため、好印象を持たれる。
細田寺川支店総務。業務は営業のコンプラチェック。義田のグレーな営業手法を嫌う
支店長寺川支店支店長。態度が威圧的
ウエムラ寺川支店営業課長。義田の上司
シマダ寺川支店営業
ツタイ同社コンプライアンス管理部
犯罪グループ
四井リーダー的存在。幼少期から強い吃音
三田投資詐欺グループのトップ
二宮闇バイト斡旋グループのトップ。大柄
一ノ関各種オンラインビジネスを展開。小柄
半田三田の部下
義田の顧客・他
富永義田の顧客。銀杏(イチョウ)会の老人。
孫が義田と因縁?のある大学の同級生
中田義田の顧客。銀杏(イチョウ)会の老人。
息子が自社の役員の肩書きだけ持つ「ボンボンのニート」
ワタナベ義田の顧客
ナリタ義田の顧客。高級車のディーラー・社長
ムラタ義田の顧客。中学生の息子
イトウ義田の顧客
駄菓子屋のお婆さん店は義田の心のオアシス的存在

タイトルの意味・由来について

『金融義賊』の意味は基本的に文字通りだと思います。

『義賊』とは『金持ちから金を盗んで貧乏人に分け与える盗賊・犯罪者』のこと。

本作では証券マンの主人公が富裕層の顧客から資産を盗み、恵まれない下流層に分け与える、という計画に由来しています。

ちなみに義賊として有名なのは実在の人物だと石川五右衛門、フィクションだとアルセーヌ・ルパンです。

『金融義賊』ナレーションについて

ナレーションは『中村 友紀』氏一人。

義田の脳内では顧客を嘲笑しつつ、外面的には善良なビジネスマンというギャップが、音声だからこそより効果的に伝わります。

また、通常はシニカルでクールだけど、時々覗かせる人間味も印象的。

著者自身のyoutubeでもナレーションで聴けますが、明らかな機械音声なので好みが分かれるかと思います。

あとがき

本作が元々youtube発信の作品というのは聴いた後に知りました。

後から考えると、確かに出版社や編集者が介在してない(←多分ですが)と感じるポイントもありました。特に犯罪グループメンバーの関係性や来歴は描かれない点。

なんとなくですが、オーソドックスな展開としてはもっとその辺りも描かれる気がします。もし、編集者的存在がいたら、そういう提案があって4人の繋がりの過程にフォーカスする展開もあったかもしれません。

ボリューム的に長編としては少し短めなので、単純にそういう事情もあるかもしれません。

実際、あの若者たちはどう繋がったのか気になるところですが、視聴する際はあまりそういう方向への深堀りは期待しない方が良いかと思います。

作中に隠れてる、格差以外にも重要なある社会的問題

作者は特に意図はしてないと思いますが、本作にはある重要な社会的な問題も含まれてると思いました。

それは『どんなに強固なセキュリティも、信頼してる身近な人間には無力』という問題。

本作は大筋として優秀な証券マンが富裕層の顧客の信頼を勝ち取り、それにより顧客の財産を略取する、という内容です。

通常、富裕層の財産の保護は物理的にも金融システム的にも万全のはず。でも、信頼されてる人間はどんなに高いセキュリティの壁も横から簡単に通り抜けることができます。

つまり、『最も信頼してる内部の人間こそ最大のセキュリティホールになり得る』ということ。

最近、某メジャーリーガーが信頼していた通訳の巨額詐取事件が話題になっていることもあり、この小説にはそんな普遍的な問題も含まれてるなとふと思いました。

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著者エフ
ナレーター中村 友紀
再生時間7時間22分
発行年2022(youtube公開年)
配信日2023/09/22
『金融義賊』audible基本情報
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