『告白』湊かなえ 著(2008)。
生徒に娘を殺された女性教師の『復讐』を描いた長編小説です。
本作はデビュー作にして本屋大賞を受賞。2008年だとまだ第6回ですが、すでに注目されてる文学賞だったので話題になりました。
『愛美はこのクラスの生徒に殺されました。』
中学校の担任、森口悠子は一人娘を事故によって亡くした。
しかし、娘の死の真相を知った森口はホームルームで生徒たちに語り始める。
それは娘を死に至らしめた生徒へ向けた審判の言葉だった。
物語は終業式のホームルームから始まります。
森口先生は最後の挨拶のように語り始めますが、話の矛先は数ヶ月前の『不幸な事故』に。
その事故で森口先生の幼い娘が学校のプールで水死しています。
しかし、のちに娘は事故死ではなく殺害されたと確信します。
しかも、自分のクラスの2人の生徒によって。あまりにも不条理な理由で。
全てを知った森口先生は最後の日にある『告白』をします。
すぐにでも娘の仇を討ちたい。犯人たちを警察に突き出したい。
そんな激情を無表情のベールで覆って、粛々と生徒たちに『裁き』を下します。
一教師として。生徒たちの『更生』を願って。
ここまでで第一章が終わり、2章以降は『裁き』の経過や様々な登場人物の視点で事件の断片が繋がっていきます。
今回15年ぶりの再読だったのですが、改めて異質で異様な作品だと感じました。
その辺り(どこがどう異様か?)を中心にレビューしたいと思います。
『告白』ショートレビュー・注目ポイント
物語の重要なネタバレには触れず、注目ポイントを紹介。
- 第一章だけで短編小説として高い完成度を持つ長編作品
- それぞれの章が『告白』の重みを持ったストーリー
- 表面的な静けさと水面下でたぎるそれぞれの慟哭
第一章だけで短編小説として高い完成度を持つ長編作品
普通に長編小説の感覚で聴き始めたら、第一章を聴き終えた段階で違和感を覚えました。
長編の一部というより、一章だけで完全に独立してる短編小説のように感じたためです。
そもそも女性教師の独白だけで進行する、やや変わった趣向も短編っぽい。読んだ感触も普通に短編を書こうとして書かれた短編としか思えない。
これが長編の第一章…?
と、疑問に思って確認したところ、実際最初は短編小説として執筆されたそうです。
そして、第一章『聖職者』は短編として小説推理新人賞を受賞しています。
参考記事:楽天ブックス|著者インタビュー 湊かなえさん『告白』
背景を知って納得はしたのですが、創作過程から異質な作品だと思いました。
一章だけで高い完成度で完結してるのに、そこからさらに深みと密度を増した世界観を作り上げています。
それぞれの章が『告白』の重みを持ったストーリー
第一章は元々短編として書かれており、二章以降も比較的短編に近い形になってます。
文章の語り手も章ごとに変わり、それぞれの視点で一つの殺人事件の全容が描かれてます。
語り手 | |
---|---|
第一章『聖職者』 | 森口悠子(娘を殺された担任教師) |
第二章『殉教者』 | 北原美月(中学校の女子生徒) |
第三章『慈愛者』 | 少女を殺した少年Bの家族 |
第四章『求道者』 | 少女を殺した少年B |
第五章『信奉者』 | 少女を殺した少年A |
第六章『伝道者』 | 森口悠子(娘を殺された担任教師) |
各章が『告白』というタイトルの短編小説のようで、幾重にもズシっと重みのある『告白』が連鎖します。
始まりから終わりまでシリアスで重厚なテンションに満ちており、同時に各章約1時間、全体で約8時間とボリューム的には軽め。
短編と長編のハイブリットといった趣があります。
そして、最終章『伝道者』もテーマとなるのは『告白』。
第一章で生徒たちを震撼とさせた担任教師が再び登場します。
表面的な静けさと表面下でたぎるそれぞれの想い
最後に、分かりやすく異様なポイントを。
それは目に見える光景の異様な程の静けさ。冷たさと言い換えてもいいです。
一人娘を殺されたシングルマザー・女性教師の心中は言わずもがなです。
しかし、彼女の言動は不気味なほど冷静で淡々としてます。
映画『告白』の松たか子のジャケットのように無表情。
それは他の語り手も同様。
それぞれが決壊寸前の想いを抱えながら、嵐の前のような静けさ、危うさをまとってます。
その『目に見える光景と心象風景のギャップ』が、作品全体になんとも言えない異様な雰囲気を漂わせてます。
『告白』作品情報
主な登場人物・人物相関図
![](https://guideandreviews-library.com/wp-content/uploads/2023/11/kokuhaku-mk-cc-02-1024x803.jpg)
『世直しやんちゃ先生』は実在する人物『夜回り先生(水谷修)』と『ヤンキー先生(義家弘介)』を彷彿とさせます。単純に両方の名前を足した感じですし。
実際にモデルにしてるかどうかは不明です。
寺田良輝のニックネーム『ウェルテル』の由来はそのままゲーテの『若きウェルテルの悩み』ですが、キャラクター的には文学的懊悩の対極にいるような熱血教師です。
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。
森口悠子 | S中1年B組担任。1年の3学期を最後に教師を辞職。シングルマザー。 一章『聖職者』六章『伝道者』の語り手。 |
森口愛美 | 悠子の一人娘。未就学児童。学校のプールで水死。 |
桜宮正義 | M中教師。『世直しやんちゃ先生』としてメディアに取り上げられる。 |
寺田良輝 | S中2年B組担任。森口悠子の後任。桜宮に憧れる新米熱血教師。あだ名『ウェルテル』 |
タケナカ | S中教師。テニス部顧問。 |
生徒 | |
---|---|
渡辺修哉 | 愛美を殺害した少年A。成績優秀で周囲から一目置かれた存在。 五章『信奉者』の語り手。 |
下村直樹 | 愛美を殺害した少年B。テニス部。5人家族。 四章『求道者』の語り手。 |
北原美月 | 学級委員長。少年Bの近所に住む。 二章『殉教者』の語り手。 |
Cくん | Aの小学校の同級生。 |
Dくん | テニス部。 |
Eくん | テニス部。華奢なためあだ名は「キャシー」。 |
Fくん | Bと同じ塾に通う。 |
その他の生徒 | タナカ君/オガワさん/ハセガワ君/ ハマサキさん/ナイトウさん/マツカワさん/ シモムラ君/ホシノ君/ニシオさん/ ソネさん/リョウジ/ユウスケ/ アヤカ/ユミ/マキ/タカヒロ |
その他 | |
---|---|
下村姉 | 直樹の姉。三章『慈愛者』の語り手。 もう一人上の姉がいて妊娠中。 |
下村母 | 直樹の母。三章『慈愛者』の語り手。 夫義彦。弟コウジ。 |
瀬口喜和 | K大学の教授。科学工作展の審査員。 |
八坂 | K大学の准教授。修哉の母親。 |
渡辺父 | 修哉の父親。 |
渡辺美由紀 | 修哉の父親の後妻。 |
『告白』ナレーションについて
ナレーションは女優の『橋本愛』氏一人。
映画ではヒロインの美月役を演じてます。
厳かでクールな声のトーンが作品の雰囲気に合ってると思います。
巻末にはAudible限定で著者の湊かなえ氏との対談が収録。
この対談内で湊氏がナレーターに橋本愛氏を抜擢した理由を話されてます。
曰く、『映画出演時の生徒目線の心情、そして現在の大人目線の心情、両方を理解できるから』とのこと。
著者自身がナレーターを指名されてるケースを初めて知って、そういうこともあるのかと意外でした。
一つ気になったのはオーディオブック終了直後に対談音声が流れる仕様。
感覚的に一瞬で物語の余韻がブツ切りになるため、巻末コンテンツは再生ボタンを別に設けるなど、何かよりベターな方法がある気がしました。
あとがき
今回久しぶりに再読したら、前回は感じなかった『各章(特に第一章)の作りが短編小説っぽい』ところが印象的でした。
特に映画を観ると原作は普通に長編小説としか思わないはずです。
どちらかというと『長編小説』というより『連作短編集』が近い気がします。もしくは『連作長編』(?) 細かい分類にあまり意味はありませんが。
映画と小説(audible)、お勧めの視聴順は甲乙つけ難いです。
どれも良かったので、気になったものからで問題ないと思います。
著者 | 湊 かなえ |
ナレーター | 橋本 愛 |
再生時間 | 8 時間 20 分 |
発行年 | 2017 |
配信日 | 2023/03/22 |
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