ラダーシリーズの『芥川龍之介短編集 “杜子春”』をaudiobook(otobank)とkindleで視聴したので、ポイントや感想をまとめました。
『芥川龍之介短編集』は『鼻』『藪の中』を含む3編が収められてますが、この記事では「杜子春』を取り上げます。
- どんな内容の作品か聴く前に確認したい
- 用語・単語や予備知識として知っておくといいポイントをチェックしたい
- ラダーシリーズを使って英語を勉強してる人の所感や成果を知りたい
※ このブログではラダーシリーズを軸にした英語学習の過程を記録してます。
最終的な目標は『様々な英語のaudiobookを聴けるようになること』。
『杜子春』はその学習記録の1作目です。
ラダーシリーズと『杜子春』の概要
ラダーシリーズの概要
ラダーシリーズは「はしご(ladder)」のようにレベル別にステップアップしていく英文読解シリーズです。
作品冒頭「はじめに」では、英語習得のためには『なるべく多く・速く・訳さず』『英語を英語のまま理解』することを推奨しています。
ラダーシリーズのレベル | |
---|---|
レベル1 | 中学校で学習する単語 約1000語 |
レベル2 | レベル1の単語+使用頻度の高い単語 約300語 |
レベル3 | レベル1の単語+使用頻度の高い単語 約600語 |
レベル4 | レベル1の単語+使用頻度の高い単語 約1000語 |
レベル5 | 語彙制限なし |
『杜子春』はラダーシリーズ5段階の内のLevel1です。
audiobook(再生時間) | 約45分 |
kindle | 約16ページ(挿絵を除く) |
『杜子春』の分量は短編なので短めです。
本とkindle版では「簡単なあらすじ・用語説明・挿絵」が含まれますが、audiobookの方はありません。
作品の概要
『杜子春』は芥川龍之介が1920年に発表した短編小説です。
完全なオリジナルではなく、中国の同名の伝奇小説をアレンジした翻案作品です。
『羅生門』や『蜘蛛の糸』に比べると知名度は劣りますが、芥川の代表作の一つと言われています。
中国の原作の方は未読ですが、芥川版とは特に結末が異なるようです。
簡単に言うと、文化的な思想、価値観の違いから「何を良しとするか」という点で真逆と言っていい展開になってます。
そういう面で舞台は中国ですが、日本人が読んで自然と理解しやすいストーリーだと思います。
作品内容・あらすじ
簡単にまとめると、
『金持ちの息子だった若者・杜子春が散財の末に破綻。人生に絶望してるところに不思議な老人が現れ、自分と人生を見つめ直すキッカケとなる』という内容です。
老人は仙人で魔術を使えたり、地獄の閻魔大王が登場したり、設定はファンタジック。加えて、テーマ的に普遍的な教訓が含まれていたり、どこか昔話や御伽話のようなストーリーです。
洛陽に住む貧しい若者、杜子春。ある時彼の元に不思議な老人が現れ、莫大な富を授ける。三年後、杜子春が金を使い果たすと、老人は再び彼の元に現れ、莫大な富を授ける。三度目、杜子春はまた金を使い果たし、老人はこれまでと同じように富を与えようとする。しかし、杜子春は金によって態度を変える人々に辟易し、その申し出を断り、老人の弟子にしてほしいを願い出る。
二人は空を飛んで峨眉山へ向かうと、老人は杜子春に一つの指示を与える。
『杜子春』登場人物・用語・単語
kindle版は人物名などある程度注釈があるのですが、audiobookではありません。
予備知識がないと英語以前に中国関連の言葉が理解しにくいので、audiobookだけで視聴する場合はこの記事で確認してもらえたらと思います。
(※)は原作での表記。
(☆)はkindle版注釈。
登場人物
Toshishun(杜子春) | 主人公の若者 |
Tekkannshi(鉄冠子) | 杜子春の元に訪れた不思議な老人。仙人(※) |
Seiobo(西王母) | 中国神話の女神(☆)。鉄冠子(仙人たち)の「mother」的存在。 |
evil spirits | 人間をたぶらかす『魔性(※)』 |
demon warrior | 神将(※) |
King of Hedes | 閻魔大王(※) |
devil | 鬼(※) |
用語や英単語
個人的に分からなかったものや気になったものをピックアップしてます。
単語も中国の話という背景を考慮しないとニュアンスが伝わりにくい言葉があると思います。
例えば、『wizard』は『魔女』という印象がありますが、本作は男ですし、原作では『仙人』となってます。
用語以外は自分なりの訳なので、参考程度にしてください。
1章 | |
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Tang | 唐(7〜10世紀) |
Luoyang | 洛陽。現在の中国河南省。 |
go from day to day | 日々を送る |
may as well | かもしれない |
who knows from where | どこからか来た |
for a second | 少しの間 |
2章 | |
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person who could be called important | 重要と言われる人物 |
a year passed, and then another | 1年2年経つ内に |
3章 | |
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that far | そこまで |
look my way | 私の方を見る |
for someone so young | 若いのに |
from now on then | これから |
wizard | 仙人(☆) |
Mt.Gabisan | 峨眉山(がびさん) |
『In the morning』 | 詩。『呂洞賓の作による詩。仙術を用いて中国全土を飛び回るさまを詩う(☆)』 |
4章 | |
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all around | あたり一面 |
make its way through | 通り抜ける |
let out a terrible cry | ひどい叫び声を上げる |
come througn the experience alive | 生きていることを実感する |
couldn’t(can’t) help 〜 | 〜せずにいられない |
5章 | |
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Hades | 地獄(※) |
Road of the Dark Hole | 『闇穴道(あんけつどう)(※)』 『この世と地獄を結ぶ道(☆)』 |
never ending place | 『森羅殿(しんらでん)(※)』 『閻魔大王の宮殿(☆)』 |
sorry | 哀れな。『痛い思い(※)』 |
『杜子春』レビュー・注意点・ポイント
『英語・ナレーション・物語・その他』に関する感想やポイントについて。
英語について
- 国や時代的背景を知らないと理解しにくいのである程度予備知識は必要
- 幻想的な描写は特に英語の場合は理解しにくい
- 単語自体は簡単だけど、慣用的な使い回しはすぐに理解できない箇所がある
1つ目は用語の所でも触れた通り。
2つ目は仙人やevil spiritsが魔術的な『技』を仕掛けてくるシーンがあり、英語だと『それが現実なのか?いきなり何が起こったのか?』分かりにくいと思います。
3つ目は、例えば『sorry』。
『I’m sorry』などで誰でも知ってる単語ですが、作中、何度か次のような使われ方をしてます。
“If you do not answer〜, your mother 〜 will be sorry.”
原作では『痛い思い』になっており、他の箇所も含めて全体的に『もし〜しないと、後悔するぞ』のようなニュアンスで使われています。
こんな風に『有名だけど、使われ方は馴染みがない』言葉が結構あり、『なんとなく分かりそうだけど、いまいち分からない』文章が積み重なると段々理解がぼんやりしてきます。
見方を変えると、辞書的な意味だけでなく、こういう実際の使われ方にも慣れることが重要だと思いました。
audiobook・ナレーションについて
男性のナレーションで、普通に聞き取りやすいです。
Level1のためか、通常の再生速度はネイティブより明らかにゆっくりだと思います。
『芥川龍之介短編集』では『杜子春』の他『鼻・藪の中』が収録されており、『杜子春』以外は女性ナレーター。体感では『杜子春』は他2作より一段階ゆっくりに聞こえます。
PCでのダウンロード音源は通常速度しかありませんが、アプリだと0.1刻みで速度調整できるので何度も聞き返す際はアプリが実用的です。ちなみに自分の場合、基本1.5倍前後で聴いてました。
物語について
芥川作品は子どもの時に何作か読んでるはずですが、全く記憶になく、ちゃんと読むのは初めての感覚でした。
短いながらもメッセージ性がシンプルで力強く、『なるほど、文豪の代表作に数えられるだけある』と思いました。
また、何度も聴いてると、明確に正解のない解釈を残す要素も多いと思いました。
例えば、地獄のシーンは『現実に起こったことなのかどうか?』
本作は『仙人や魔術が現実に存在する世界観』です。
だとすると『地獄や閻魔』のシーンも実際に起こった『現実』だったのか?それとも地獄のシーンは全て仙人が魔術で見せた『幻想・非現実』だったのか?
改めて考えてみると、意外とその重要なポイントすら明確にはなっていません。
もし、現実だったとしたら『両親はなぜ地獄にいたのか?(ごく真っ当な善人として登場するのに。)何かこの世で悪行を働いたのか?』など、視聴回数が増えるごとに色々気になることが思い浮かぶ作品です。
まずは英語の理解が先ですが、慣れてきたら物語の解釈について考えてみるのも面白いと思います。
その他のポイント まとめ
- 有名な日本人小説家の代表作という点では英語初学者でも手に取りやすい
- 青空文庫のため、日本語の原作が無料で読める
- 日本語版の『杜子春』もaudibleやyoutubeで複数の朗読作品が公開されている
日本語の朗読作品は目に留まったものだけでも10作以上あります。
audibleはもちろん、youtubeもプロの朗読なので驚くほどクオリティが高いです。
ただ、今は普通に使わない単語や表現が含まれてるので、日本語で聴いても分かりにくい箇所はあると思います。
むしろ、古めかしい言葉や作中で歌われる詩など、日本語の方が意味がわからない箇所もあります。
英語学習の記録:思ったことや進捗メモ
冒頭に書いた通り、『杜子春』は英語学習×ラダーシリーズの1作目です。
まずは『学習の型』を模索することを意識しました。
- 内容を理解できていない状態で流し聞きはいくらやっても効果が薄い
- 『英語のまま理解』はまずは日本語で理解してから
- 英語のまま理解できるまで、『リスニング+音読』を繰り返す
内容を理解できていない状態での流し聞きはいくらやっても効果が薄い
『分からないまま、何度流し聴きしても意味がない』はある参考書でも言われているのは知ってました。
ただ、今回英語学習の1歩目ということで、試しに『だたの流し聴き』をやってみました。
最初、テキストを全く読まない状態で1倍速で聴いたらほぼ理解できず。その後、合計30回以上は聞き流ししても結果は変わらず。やはり、理解度もリスニング力も全く進歩はありませんでした。
ちなみにその後、英文で読んだ際は1回目でもある程度全体的なストーリーを理解できました。
そのレベルの英文でもリスニングでは部分的に聞き取れる程度で、全体の理解はほぼ無理。その状態で何度聞き流しても理解も進歩もしにくいと確認できました。
『英語のまま理解』はまずは日本語で理解してから
ラダーシリーズの『はじめに』では『なるべく日本語に訳さない。英語のまま理解』と書いてあります。
これは他の参考書などでも指摘されていて、
『分からない言葉も全体の文脈で類推することがセオリーだし大事。』
『いちいち脳内で日本語に翻訳してたら、いつまでもネイティブのスピードに追いつかない。』
という理由からだと思います。
これ自体は正しいと思います。ただ、『分からない単語・文章』は一旦日本語に訳さないと理解できないのも事実。毎回、類推だけで理解していくのは中々難しいというのが素直な感想です。
そこで、
『分からない文章は早めに調べてもOK』+『何度も繰り返すことで、最終的に英語のまま理解』
というスタンスが一番しっくりきて、そのやり方を取り入れてます。
本作は青空文庫や日本語のオーディオブックも豊富なので日本語作品も都度確認しました。
英語のまま理解できるまで、『リスニング+音読』を繰り返す
いわゆる『シャドーイング(英語を聞きながら真似して発音する方法)』と呼ばれる方法も取り入れました。
回数的には概ね1日1回、最初から最後までリスニング+発音(再生速度:1.5倍前後)。
その他にリスニングのみを1〜数回(再生速度:1〜2倍)。
単語や内容を把握してからこれを1ヶ月ほど継続し、『1倍速で英語のまま(頭で日本語に訳さず)全体を理解』できるようになった感じです。
実際のところ、そもそも1ヶ月に何十回も同じ短編をインプットしてるので、内容を完全に覚えてるところも大きいです。
でも、それも悪いことではないと思うので、とりあえずこのやり方で続けていこうと思ってます。
補足すると、個人的目標は『英語のaudiobook作品を聴く』なので、『音読』は話すためというより、『リスニングのために英語をより身に染み込ませため』という意味合いが大きいです。
まとめると、次のような流れでラダーシリーズを聴き進めていく予定です。
- 最初に分からない単語や文章は早めに確認
- 『リスニング+音読』『リスニングのみ』を毎日継続
- 『リスニングのみ』で英語のまま理解できるようになるまで繰り返す
- 『3』がクリアしたら次の作品に進む(ラダーシリーズのレベル順)
この流れで英語のaudiobookを日本語のように聴けるまで続けたいと思います。
あとがき
とにかく、『一つの作品を英語で聴ける、理解できる』という体験ができたことが大きいです。
時間はかかってますが、元々個人的な趣味が目的なのでその点はあまり問題にしてません。
手応えややりがいもあり、負担なく続けられそうなので、引き続き、上記の流れでラダーシリーズを聴いていきたいと思います。
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