『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 著(2022)。
2022年本屋大賞ノミネートをはじめ、様々な賞で名前が挙がった話題作です。
就活面接の最終選考でディスカッションに臨む6人の大学生。
それぞれの『裏の顔』を暴く封筒が起爆剤となり、ヒリヒリした心理戦が繰り広げられる。
封筒を用意したのか一体誰なのか?
イレギュラーな事態の中、内定を勝ち取ったのは?
優秀でハイスペックな大学生達の「本性」とは?
次々とあらゆる謎と新事実が展開し、一気読み必至の快作です。
人間の裏表がテーマになっていて、ドロドロとした人間模様も描かれてますが、ラストの後味はむしろ清々しいものになってます。
- 王様のブランチ ブランチBOOK大賞2021
- このミステリが読みたい!2022 国内編8位
- 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門6位
- このミステリーがすごい!2022 国内編8位
- 2022本格ミステリ・ベスト10 国内ランキング 4位
『六人の嘘つきな大学生』ショートレビュー・注目ポイント
- 最終試験で予想外のハプニングが起こり、錯綜する人間模様
- 過去と現在。2つの時間軸/パートを織り交ぜた構成
- テーマは裏表のある人間性。人への一面的な見方に疑問を投げかける
最終試験で予想外のハプニングが起こり、錯綜する人間模様
最終試験に残っていた6人は元々、最終試験で共同ディスカッションをする予定でした。
つまり、全員敵ではなく味方。内容次第で全員合格もあり得るという条件のため、懇親会などで一致団結するムードが出来上がってました。
そこへ、急遽『内定者は一人のみ』というイス取りゲームへ変更。さらに試験が始まったら全員の『ゲスな本性』が暴露され始めるという急転直下の事態に見舞われます。
最初から敵対するのではなく、一旦温かいムードが出来上がってから、一気に人間不信の底に突き落とす所がストーリー的に上手いと思いつつ、かなり悲惨です。
そんな極限状況の中で、暴露封筒を用意した『犯人』をあぶり出し、全員で『相応しいと考える内定者』を決定します。
過去と現在。2つの時間軸/パートを織り交ぜた構成
この作品は構成が少しユニークで、次の2つに分類されます。
- 最終選考試験の「事件」が起こっているパート【過去/2011年頃】
- 数年後、「事件」の全容(封筒を用意した犯人)を追究するパート【現在/2019年頃】
この2つの時間軸を行き来する形で話は進行します。
【現在】パートは社会人になった大学生達が一人ずつインタビューに答える形で当時の『事件』を回顧してるのも面白いところ。
インタビューしてる人物は伏せられているので『誰がなぜ過去の事件を掘り返してるのか?』という新たな謎が生まれます。
こうして様々な謎やヒント、伏線、裏切りが提示されては二転三転していくところが本作の一番の魅力。
たった6人しかいないんですが、最終的な答え(暴露封筒を用意した犯人)を予測するのは難しい、というより、作り的に基本的に無理かと思います。また、真犯人の推理が一番の主題とは言い切れないところがあります。
その点で本作はミステリー作品ではありつつ、本格ミステリー/本格推理小説には分類されないかと思います。
テーマは裏表のある人間性。人への一面的な見方に疑問を投げかける
一連の出来事の根底に「人の印象の不確かさ」というテーマが垣間見えます。
人間誰でも裏表があって、とりわけ「就職活動」ではそのギャップが浮き彫りになることがあります。
人の多面性というテーマは特に珍しくないですが、その振れ幅が際立つ舞台として「就活」を選んだのは巧みな設定だなと思います。
また、就活生達が受ける企業がSNSの運営会社なのも示唆的。
ネットでの一面的な人格評価、バッシングが猛威を振るう中、そういった風潮に疑問を投げかけるように、就活生達の印象も刻々と変化していきます。
作中、「就活における人物評価の絶対性」にも割とはっきり異議が唱えられてます。
特に就活してる最中の学生は、本作を読むと少し気持ちが楽になるかもしれません。
『六人の嘘つきな大学生』作品情報
簡単なあらすじ
新進気鋭のIT企業「スピラリンクス」、初の新卒採用の最終選考に6人の大学生が選ばれた。
最終課題は疑似案件をテーマにしたグループディスカッション。
しかし、本番直前で議題が「6人で一人の内定者を決める」に変更される。
6人は甘んじて変更を受け入れ課題に臨むと、部屋に6通の封筒が置かれていることに気づく。
『〇〇は〇〇の主犯/〇〇は恋人に〇〇強要/〇〇は〇〇に加担』
封筒の中にはそれぞれの『醜聞』を暴露する告発文が入っていた。
一体誰がなぜこんな封筒を用意したのか?
6人の『最悪な本性』が暴かれる中、一人の内定者を決める議論は紛糾していくー。
主な登場人物・人物相関図
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『六人の嘘つきな大学生』主な登場人物・人物相関図
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。
就活生 | |
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波多野祥吾 | R大学経済学部。優等生。 |
九賀蒼太 | K大学総合政策学部。完璧タイプ。 |
袴田亮 | M大学国際日本学部。体育会系。 |
矢代つばさ | 0女子大学文教育学部。社交的。 |
嶌衣織 | W大学文学部社会学。才女。 |
森久保公彦 | H大学社会学部。オタク気質。 |
その他 | |
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鴻上達章 | スピラリンクス人事。56歳。 |
スズエ マキ | スピラリンクス新入社員。 |
波多野ヨシエ | 波多野祥吾の妹。 |
カワシマ カズヤ | 九賀の優秀な同僚。 |
ハラダ ミユ | 久賀の恋人。 |
サトウ ユウヤ | 袴田と同じ野球部部員。 |
サガラ ハルキ | ミュージシャン。 |
『六人の嘘つきな大学生』ナレーションについて
ナレーターは『木村 良平』氏一人。
『息継ぎが気になる』というレビューがちらほらあり、確かに結構はっきり聞こえて人によって気になるレベルかと思います。
声色に品と色気があるところはエリート就活生役にぴったりだと思いました。
「森久保」だけやや異質で陰気なキャラ。
あえて特徴を際立たせてるのだろうけど、ここまで陰気な感じでよく最終選考までいけたな、と思います 笑
あとがき
『六人の嘘つきな大学生』というタイトルは最初ちょっと違和感がありました。
タイトルにしては直接的すぎて、何か翻訳調っぽい印象。
読んでて気づいたのがこの作品おそらく『十二人の怒れる男(12 Angry Men)』のオマージュになってます。おそらく、というかほぼ間違いなく。
『十二人の怒れる男』は1950年代のアメリカドラマ、また、それをリメイクした映画作品。
内容は裁判の陪審員達が判決を議論する中で、容疑者の人物像と「真実」の見え方が変わっていく、というものです。
人の印象と事実の不確かさがテーマになっていて、一種の密室劇になってるところも共通してます。
ドラマは見てないですが、映画は古典的名作と言っていい作品ですごく面白かった記憶があります。小説と合わせてオススメです。
著者 | 浅倉 秋成 |
ナレーター | 木村 良平 |
再生時間 | 9 時間 46 分 |
発行年 | 2021年 |
配信日 | 2022/05/06 |
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