『鎮魂』紹介レビュー | 実在の半グレ組織をモチーフにした社会派ミステリー

日本の小説
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『鎮魂』染井為人 著(2022)。
元ネタについては知らないのですが、実在の半グレ組織と事件をモチーフにした作品という事です。

元ネタを知らなくても、事実が下敷きになってると知ってるだけでも内容にグッと重みが増します。

内容紹介

有名な半グレ集団『凶徒聯合(きょうとれんごう)』のメンバーが次々と殺害され始める。残ったメンバーとの攻防の中、やがて意外な真犯人の姿が浮かび上がる。

ジャンル的にアウトロー作品が好きなこともあり、かなり面白かったです。
序盤からラストまで純粋に『事件はどう決着するのか?』と引き込まれました。

予想外だったのが、終盤に向けて意外な新事実がいくつも仕掛けられていたこと。

事件の犯人以外にも全く意識してなかった所で『あ、ここにもこんな新事実が隠されてたんだ』という驚きがありました。

終始アウトロー物らしいヒリついた空気感も楽しめ、また、現代的なメッセージ性も込められていて読み応えのある一作です。

著:染井為人
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『鎮魂』ショートレビュー・注目ポイント

  • 著者が作品を書いたキッカケと作品に込められたメッセージ性
  • 決死の連続殺人犯と悪のカリスマの対決の行方
  • アウトローの中でも『半グレ』にフォーカス

著者が作品を書いたキッカケと作品に込められたメッセージ性

著者がインタビューで執筆した動機を語ってます。

少し前から、動画メディアが出てきて、YouTubeで元不良や元ヤクザみたいな人たちが顔を出して動画を公開するようになりましたよね。見ているほうも刺激が欲しいから、再生回数も上がる。ただ、その一方でかつて悪いことをした人たちが公の場に出ることで、過去に傷ついた被害者の人たちがどう思うだろう。顔も見たくない、話も聞きたくないと思うんじゃないか。傷つけた人たちの目に触れないようにすることが一番の謝罪なのでは、と思ったのがキッカケですね。

「被害者にも加害者にも読んでほしい」日本一有名な半グレ組織が題材の問題作『鎮魂』。社会派ミステリーの新星・染井為人インタビュー

作中、『悪がまかり通っている』ことへの違和感や憤りが散りばめられてます。
インタビューを読むとその根底に作者自身の思いが垣間見えるような気がします。

同時に、勧善懲悪的に割り切れない要素もふんだんに盛り込まれてます。
例えば、半グレメンバーに共感できるところもあったり、逆に正義を振りかざす人物に反感を覚えそうな描写があったり。

印象的だったのが、ナカオの『ワルをエンタメとして金儲けの道具にするなんて許せない』という指摘。これはモラル的に至極正論。

でも、まさに『鎮魂』をエンタメとして消化してる自分としては耳が痛くなる言葉…。著者自身にもはね返ってきそうな気がします…。

そんなアレコレで、『あー、面白かった』と共に考えさせられる余韻が残る作品です。

決死の連続殺人犯と悪のカリスマの対決の行方

面白さの核となってるのはやはり進行中の連続殺人における攻防戦
そして、その攻防のキーとなる両者の人物像だと思います。

狙う側は、過去に『凶徒聯合』に因縁を持つ、ある人物。

普通に考えて悪名高い半グレ集団に挑むのは無謀の一言。その分、決死の覚悟と緻密な計画性が窺え、着実にメンバーの殺害を遂行していきます。

対する『凶徒聯合』は喧嘩無敗を誇り、リーダーのイシガミは天才的な頭脳で絶対的なポジションを築いてきた悪のカリスマ。

互いに敗れる姿がイメージできない戦いに、最強の矛・盾勝負を見守っているような気分になります。

アウトローの中でも『半グレ』にフォーカス

アウトロー物は、やはりヤクザ・暴力団が多い中、本作では半グレに焦点が当てられてます。

半グレについてよく知らなくても楽しめますが、ある程度知っていた方が理解しやすいと思います。

簡単に説明すると、半グレは『ヤクザ・暴力団組織に所属しない犯罪者/集団』。
自分の認識だと、『ヤクザになると色々面倒だから所属しない人。やってること自体は大差ない』という印象で、大枠はあってるかと思います。

面倒というのは例えば、ヤクザになると暴対法が適用され、クレカが作れなかったり一般的な生活が制限されます。
ヤクザ内部のしきたりや上納金/会費も面倒臭い。

そこで、暴力団に属さない人間が増えてきて、それをまとめて半グレと呼んでるという感じです。

作中、半グレ組織に解散の話が出てくるですが、その理由が半グレ対策の法令が施行されることになったから。
ヤクザ向けの暴対法が出来て半グレが増えたので、今度は半グレ向けの法令で活動を規制しようという狙いです。

実際にそんな動きがあるのか分かりませんが、現実でも全然ありえるリアリティのある設定だなと思います。

『鎮魂』ナレーションについて

ナレーターは『山口 キヨヒロ』氏一人。
何点か気になる点がありました。

半グレの割に口調が全体的にソフトで、演出としてあえてなのかな?と思いました。表向きの顔はカタギだから?

普通の小説なら普通に良かったかもしれませんが、アウトロー物としては少し話し方が柔らかいように感じます。

文章の『…』を毎回『てんてんてん』と読むのも気になりました。この表現はAudibleの場合どうすべきか難しいかもしれませんが。

アングラ物はあて字が難しい言葉がよく出てきますが、本作は少なめで『凶徒聯合』くらいだったと思います。

『鎮魂』作品内容

簡単なあらすじ

世間でも名の通った半グレ集団『凶徒聯合(きょうとれんごう)』のメンバーが殺害された。

警察は敵対関係のある組織の仕業だろうとタカを括って捜査をするが、一向に犯人の姿が見えてこない。

半グレについて面白おかしく取り上げる雑誌編集者。
『凶徒聯合』に恨みを持ち、 SNSで事件を扇動する元会社員。
犯人を義賊のように持ち上げ始めるネットの声。

世間の注目度が上がる中、メンバー達は次々と犯人の手にかけられていくー。

タイトルの『鎮魂』の由来は割とストレートです。
犯行の目的が半グレへの復讐を果たし、ある被害者の魂の安寧を願っている所から来ています。

『鎮魂』詳しい登場人物まとめ

オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。

半グレメンバー以外
キタガワ エイスケ弟が人違いで『凶徒聯合』の襲撃を受ける。
キタガワ ヨイスケエイスケの弟。人違いで『凶徒聯合』の襲撃を受ける。
フカマチ キョウコエイスケの元恋人。
ヒラオカキョウコの上司。
ナカオ サトシ過去、親友が『凶徒聯合』の襲撃を受ける。
天野『月刊スラング』の編集者。凶徒聯合の特集本を企画。
ニノワ『月刊スラング』の編集長。
古賀事件を追うベテラン刑事。
窪塚刑事。古賀の部下。
エビハラ捜査一課長。56歳。娘ミカ。
ハナムラ捜査チームの主任官。
ヤイタ刑事。
半グレ『凶徒聯合』メンバー
石神 ジョウイチロウリーダー。狡猾さと残虐さでメンバーにも恐れられている。
坂崎 ダイキメンバー。恋人エグチアイカ。
オダジマ ダイチ土木会社代表。
タナカ ヒロキyoutuber『ヒロポン』。表向きは脱退。
クラマエ タカシシノギは特殊詐欺。
アクツ ヒロノブメンバー。
タキセ ジン芸能事務所代表。
ヒナミ コウスケAV制作会社代表。
ミズガヤ イッポヨウスケの事件で10年の実刑を受ける。
ホッタヨウスケの事件で2年の実刑を受ける。
その他
チョウ・リシ『リュウジン』の創始者の一人。現NPOでアウトローの更生に尽力。
フジマ兄弟『凶徒聯合』の宿敵。
セイエイ会ナイトウ組と敵対する組織。
ナイトウ組セイエイ会と敵対する組織。
リュウジン『凶徒聯合』と敵対する組織。

あとがき

作中、表向きグループを脱退してyoutuberになる『ヒロポン』というメンバーがいます。この辺りも今風の設定だなと思います。ネーミングセンスもリアル。

実際、例えば『敵刺(テキサス)』というヤクザがyoutubeに出て人気動画になってたりします。その後、それほど経たない内に逮捕されたニュースを見かけましたが…。

ちなみに、その敵刺氏が動画で触れていたヤクザ漫画『ドンケツ』を読むと昨今の半グレ事情がわかります。まだ連載中ですが、すでにヤクザ物の定番と言ってもいいくらいの作品です。

著:染井為人
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著者染井 為人
ナレーター山口 キヨヒロ
再生時間15 時間 18 分
発行年2022
配信日2022/08/12
『鎮魂』audible基本情報

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