『20 誤判対策室』石川智健 著(2018)。
前作『60 誤判対策室』の続編。本作でも『誤判対策室』が事件の真相に迫ります。
一度判決が出た事件を再調査するために国が設立した機関『誤判対策室』。
ある日対策室の有馬刑事が殺人事件の容疑者に呼び出され、『ゲーム』を持ちかけられる。『私の完全犯罪を暴き起訴できればアナタの勝ち。もし起訴できなければアナタの娘を殺します』。容疑者の意図が分からないまま、有馬は事件の捜査を余儀なくされる。
要約の通り、『20』では早速趣向が少し変化してます。
『60』は『誤判』証明の調査がメインですが、今作では普通に『有罪』を証明する所から捜査が始まります。また、死刑判決以外も捜査対象になります。
捜査の発端も特殊で、容疑者自身から『私を起訴できなかったら有馬刑事の娘を殺す』と脅迫を受けます。
これだけでは唐突すぎて意味不明ですが、実際読んでも終盤まで容疑者の真意は分かりません。
容疑者はなぜあえて自らの犯罪を暴くよう要求するのか?
なぜその相手に誤判対策室の有馬刑事を選んだのか?
最初は通常の捜査になりますが、決着に向けて『誤判対策室』の設定もしっかりと活きてきます。
そして、前作同様、あっと驚くような発想と行動で事態が急転し怒涛の結末を迎えます。
ラストのインパクトとキレは前作よりもパワーアップしてると思いました。
『20 誤判対策室』ショートレビュー・注目ポイント

- なぜ元裁判官が?品行方正な容疑者が仕掛ける支離滅裂な『ゲーム』
- 元裁判官が切り札として持つ『二十号手当』とは?
- もう一つ、キーとなる元裁判官の娘の有罪事件の真相とは?
なぜ元裁判官が?品行方正な容疑者が仕掛ける支離滅裂な『ゲーム』
まず、殺人を犯しゲームを持ちかける紺野容疑者が元裁判官という設定が面白いです。
なんとなくこういった愉快犯的な行為はエキセントリックな人物像を思い浮かべます。
自分で自首しといて自白を撤回した後、『私の完全犯罪を崩してみろ。できなければお前の娘を殺す』ってかなり無茶苦茶です。
捕まりたいのか捕まりたくないのかどっちなんだと。
そんな支離滅裂なことを真っ当な元裁判官が言い出します。淡々と大真面目に。
そのギャップが、『一体どんな事情と狙いがあるんだ??』と好奇心を煽ります。
殺人に関しても同様で、人格者の紺野が殺人を犯し、しかも全く悪びれずにいるという事は、『むしろ被害者こそ一体どんな悪人なんだ?』と想像が膨らみます。
元裁判官が切り札として持つ『二十号手当』とは?
各章のキーワードとなる『20』にまつわる要素の中でもとりわけ重要なのが『二十号手当』。
『二十号手当』とは紺野容疑者が裁判官時代に調査していたある政府の機密情報です。
この機密情報を紺野が握ったことで紺野自身の運命が狂い始めます。
同時に、『二十号手当』は紺野の切り札にもなっていて、容疑者の身で有馬刑事を呼び出せたのはこの情報をちらつかせたから。
つまり、『有馬刑事に会わせないと政府の都合の悪い情報を暴露するぞ』という形で警察に要求をのませます。
後半にも別の形で効力を発揮するんですが、時期的に読んでてちょっと引っかかりました。
というのも読んだのが、『宗教団体への取り締まりを政治の力でストップした』問題が紛糾してる最中(2022)だったため。
普段なら『フィクションでありそうな出来事』と読み流してるところですが、政治家の都合で警察が動くことへの疑問と怖さをリアルに感じました。本筋とは関係ない感想ですが。
もう一つ、キーとなる元裁判官の娘の有罪事件の真相とは?
紺野真司の殺人事件の他にもう一つ物語の鍵となる事件があります。
それは紺野の娘、ユミによる息子の虐待死事件です。
虐待死事件は紺野の殺人事件よりも前の話で、裁判ではユミの有罪が確定してます。
ユミの息子への虐待の真相は?
娘の虐待事件と紺野の殺人事件の関係は?
対策室メンバーは紺野の事件のヒントを得るためユミの事件も掘り返します。
ここで『誤判対策室』の設定が活きてきて、ユミの事件は本当に有罪だったのか?という一種の『誤判調査』が始まります。
最後の最後、虐待に関するどんでん返し的な真相の発覚にはハッとさせられます。
『20 誤判対策室』作品情報

簡単なあらすじ
元裁判官である紺野 真司は殺人を犯したと自ら警察に自首をした。
しかし、取り調べ中に自白を撤回。
判決を再調査するための組織『誤判対策室』の有馬刑事を突然呼び出し、『ゲーム』を持ちかける。
『私は完全犯罪をやり遂げました。
勾留期間の20日間に、私の殺人を証明し起訴できたら有馬刑事の勝ち。
しかし、もし起訴できなかったら、アナタの娘を殺します。』
有馬は釈然としないまま、殺人の証明とコンノの真意を探るため捜査へと乗り出すー。
前作『60』では60という数字にまつわる要素が各章のキーワードになっていました。
今作も『20』にまつわる要素がキーワードになってます。
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、正確な表記が不明/誤りがある場合があります。漢字はwikipediaや本を参照。
対策室の人員は3名のままで有馬・春名は続投。
もう一人、弁護士の世良の後任としてシオミが新しく登場します。
| 誤判対策室・警察 関連 | |
|---|---|
| 有馬英治 ★ | 警視庁捜査一課から誤判対策室に出向。取り調べの名手。 |
| 春名美鈴 ★ | 誤判対策室 検察官。 |
| シオミ カズヤ | 誤判対策室 弁護人枠で非常勤勤務。世良の後任。 |
| 世良章一 ★ | 元誤判対策室 弁護士。 |
| ホシノ | 箕輪警察署の刑事。有馬の先輩。50歳。 |
| タケイ | 有馬の知人の刑事。 |
| カジ セイジ | 紺野ユミの虐待事件に関与した刑事。 |
| アサギ | 春名の知人の裁判官。 |
| オダクラ | 裁判官。紺野容疑者を一方的にライバル視。 |
| ユアサ タク | 紺野ユミの虐待事件に関与した判事 |
| ミズタ | 春名と犬猿の検事。 |
| サクラ | 紺野容疑者の知人の検事。 |
| マツダ シオリ | 有馬刑事の娘。母親とは婚姻関係のないまま出産。 |
| 世良コウゾウ ★ | 世良章一の父。衆議院議員。 |
| トリカイ ★ | 世良議員の秘書。 |
| 山岡周二 ★ | 東名新聞社の記者 |
| 税所昭 ★ | 千葉中央大学。解剖医 |
| 紺野容疑者・事件 関連 | |
|---|---|
| 紺野真司 | 事件の容疑者。元裁判官。50歳。 |
| トミタ サトシ | 事件の被害者。30歳。 |
| 紺野ユミ | 紺野容疑者の娘。 |
| コムロ | 紺野ユミがかかっていた医師。 |
| イマムラ キョウイチ | コンビニ殺人事件の犯人。 |
『20 誤判対策室』ナレーションについて

前作同様、ナレーターは『後藤 敦』氏一人。
今回も安定感があって安心して聴けました。
紺野容疑者と有馬刑事の会話など、性別年齢が近い中、それぞれ性格に合わせて絶妙に声色を使い分けていて、分かりやすいです。
あとがき

『誤判対策室』の事件の内容は割と重めではあります。
本作の事件の全容も悲劇的といえば悲劇的。よく考えると救いがないラストとも言えます。
それでも、読んでいて暗い気分にならずに、エンタメとして消化できるところがこの作品/作家の持ち味のように感じました。しっかり腹に溜まるのに、胃にもたれないというか。
シリーズは記事の編集時点(2022)で『60、20』の二作。
共通の数字縛りで物語を構成するのは大変そうだなと思いつつ、続編があったらまた読みたいと思います。
| 著者 | 石川 智健 |
| ナレーター | 後藤 敦 |
| 再生時間 | 10 時間 36 分 |
| 発行年 | 2019 |
| 配信日 | 2019/11/08 |
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