不朽の名作『スタンドバイミー』には多くの名シーンがあります。
電車に追いかけられるシーン。
クリスが泣くシーン。
ヒルに襲われるシーン。
その中で個人的に一番印象に残ってるのは主人公ゴーディが朝、鹿を見た事を誰にも話さなかったシーンです。
映画の中でそれほど目立つ場面ではないですが、原作小説を読むと作品のテーマに関わる重要なシーンであることが伝わります。
この記事では鹿のシーンに関する次の2つの理由をまとめました。
- ゴーディが朝、鹿をみたことを人に話さなかった理由
- 鹿をみたことを人に話さなかったシーンが興味深い理由
ゴーディが朝、鹿をみたことを人に話さなかった理由
▽ ゴーディが鹿を目撃するシーン
ゴーディ達四人が死体を探しに向かう途中、森の中で一晩野宿する。
次の日の朝、起きてゴーディが線路で座ってると不意に鹿が現れる。
ゴーディはその光景に感動するが、鹿のことは仲間には話さなかった。
映画ではその理由について詳しい説明はなかったはずです。確か。
しかし、原作小説を読むと、もう少し踏み込んだ理由が書かれてます。
『スタンドバイミー』の原作の原題は海外小説らしくシンプルな『THE BODY(死体)』。
余談ですが、同じくキング原作の名作『ショーシャンクの空に』の原題も『リタ・ヘイワースの壁紙』とシンプルです。
『THE BODY』は次の文章で始まります。
なににもまして重要だというものごとは、なににもまして口に出して言いにくいものだ。
『スタンドバイミー』24p (新潮文庫) 太字引用者
それはまた恥ずかしいことでもある。なぜならば、ことばというものはものごとの重要性を減少させてしまうからだ。(中略)頭の中で考えている時には無限に思えることでも、いざ口に出してしまうと、実物大の広がりしかなくなってしまう。だが、本当はそれ以上のものだ。
鹿の事をみんなに話さなかった後でも同様の事が繰り返し書かれてます。
今の今まで、この話は人にしゃべったこともないし、書いたこともなかった。こうして書いてしまうと、たいしたことではなかったような、取るに足らないつまらないことだったような、そんな気がしていることも書いておくべきだろう。とはいえ、雌鹿との出会いは、わたしにとってあのときの小旅行での最高の部分であり、いちばんすがすがしい部分なのだ。(中略)
『スタンドバイミー』223p (新潮文庫) 太字引用者
なににもまして重要だというものごとは、口に出して言うのが極めて難しい。
なぜならば、ことばがたいせつなものを縮小してしまうからだ。おのれの人生の中のよりよきものを、他人にたいせつにしてもらうのは、むずかしい。
つまり、鹿を見たことを人に話さなかったのは
『大事なことを言葉にするのは難しいから。言葉にすることでその時の体験の価値を小さくしてしまうから』
ということです。
これはスッと理解しやすい理由だと思います。
自分が特に印象的だったのは、このことをもう一歩踏み込んで考えると、また別の様相が見えてくるからです。
鹿をみたことを人に話さなかったシーンが興味深い理由
『スタンドバイミー』の大元の設定を覚えてる人は多くないかもしれません。
この物語は小説家となった大人のゴーディが子どもの頃を回顧して述懐するという形をとっています。
ここで重要なポイントが2つ。
『言葉にするのは難しい。物事の価値を小さくしてしまう』と語っているのは言葉を生業とした小説家であるということ。
そして、『言葉にするのは難しい。物事の価値を小さくしてしまう』としつつ、鹿のシーンを含め、大事な少年時代の出来事を全て言葉にしているという点。
この構造が意外と見落とされてそうな『スタンドバイミー』の大事なポイントだと思います。
つまり、『言葉は大事な出来事を小さくしてしまう』と鹿のことを話さなかったゴーディが、大人になって『言葉の非力さ、不完全さ』を十分承知した上で、『それでも言葉にする』と思って語られたのが『スタンドバイミー』なのです。
そう考えると、青春映画としての良さだけではなく、また別の味わい深さがあります。
さらに、もう一つ凄いなと思ったのが、『言葉で人に伝えても、他人に大切にしてもらうのは難しい』と言いつつ、そうして語られたゴーディの少年時代の思い出話は多くの人に感動を与えたということ。
言葉は弱い。でも、『それでも言葉にする』と発せられた言葉の強さ。みたいなものを感じます。
『さすが小説家』と大人になったゴーディは頼もしいと思わされます。
あとがき
- ゴーディが朝、鹿をみたことを人に話さなかった理由
→ 大事なことを言葉にするのは難しいから。言葉にすることでその時の体験の価値を小さくしてしまうから - 鹿をみたことを人に話さなかったシーンが興味深い理由
→ 『大事なことを言葉にするのは難しい』と子供の頃は語らなかった話を、大人になった小説家が『言葉は不完全だけど、それでも言葉にしてる』という背景があるから
青春映画の金字塔、『スタンドバイミー』。
あまり注目されてなさそうな鹿のシーンでも興味深いメッセージや『名作の奥深さ』が感じ取れる、という話でした。
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