逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(2022)。
デビュー作にして2022年本屋大賞を受賞した話題作です。
自分は文学賞については知らず、最初タイトルと表紙に惹かれました。
決然とした意志の響きを孕んだ題字と雪下まゆさんのイラストがまず何より目を引きます。
あちこちで見かける評判も高く、実際読み始めたら止まらない面白さ。大賞受賞も納得でした。
第二次世界大戦下のモスクワ、ドイツ軍に村を壊滅させられた少女セラフィマはロシア軍の狙撃兵イリーナ達に救出される。その後、セラフィマは他の少女達と共に狙撃訓練校に入校。自ら祖国の敵を撃つべく立ち上がる。
狙撃訓練校ではセラフィマの他にも似た境遇の少女達がいて、どこか女子校のような雰囲気があります。
キャラの立った少女達のやりとりはライトノベルのような赴きがあって、この作品のジャンルをしいて表すなら『戦争小説 × ライトノベル』と言えそうです。
そういえば、戦争/軍隊物でここまで女性兵士が多いのは珍しい、というか他に思い浮かばないくらいです。
一つ引っかかったのは時期的にあまりに『世相』とシンクロしすぎて単純に楽しめない面もありました(レビューで後述)。
『同志少女よ、敵を撃て』ショートレビュー・注目ポイント

- 各文学賞で大賞、候補作に選出
- シリアスな空気感とライトな読み心地を両立した一級のエンタメ小説
- あまりにタイムリーで普遍的なテーマ性
各文学賞で大賞、候補作に選出
- 2022年本屋大賞受賞
- 第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞
- 第166回直木賞ノミネート
アガサ・クリスティー賞は初耳でしたが、対象は「広義のミステリ」で、広くエンタメ小説全般と言って良さそうです。本作にあまりミステリー要素は見当たりません。
4人の審査員全員が最高点をつけて、満場一致で大賞に決定したそうです。
本屋大賞は決定前にロシア侵攻が開始。時系列は分かりませんが、もしかしたら選考にタイムリー性も加味された?と想像しました。
しかし、得点を見るとこちらも圧倒的。大賞の本作が463.5点で2位「赤と青とエスキース」が341.5点。そもそもタイムリー性だけでこれだけ話題になるはずありません。
シリアスな空気感とライトな読み心地を両立した一級のエンタメ小説
最大の見所はやはり戦場での戦闘シーン。狙撃を軸とした緻密でリアルな攻防線。しかもソ連側は特殊訓練を受けたワケありの過去を持つ少女達という設定が面白い。
狙撃する緊張感と同時に、いつ狙撃されるかわからない緊迫感。一寸先は死。
唐突に訪れる無情な死は脳が一瞬フリーズするような、ズシッとした重みを読者の中にも残します。
果たして、セラフィマは宿敵である母を撃ったドイツ兵に巡り合います。
「同志少女よ、敵を撃て」。
幾重の戦闘と葛藤の中でセラフィマは自分が何のために戦い、何が「真の敵」なのか自覚します。
こういう作中で、タイトルの意味合いが一皮むけて改めて響くような感じは「ゴールデンカムイ」や「進撃の巨人」を彷彿としました。もっと遡ると「寄生獣」。
そういった、いわゆる「タイトル回収」の魅せ方も秀逸です。
普遍的であまりにタイムリーなテーマ性
タイムリーとは、ロシアのウクライナ侵攻のこと。本を聴く前にもちょうどニュースを目にしました。内容は「ロシア兵による市民の虐殺とレイプの横行」という一際気分が滅入るもの。
その後本作を聴いたら序盤から正に「ドイツ兵が主人公セラフィマの村を襲撃し、村民が虐殺・レイプされる」というシーン…。
とても遠い過去を下敷きにしたフィクションとして受け流せないものがあります。
21世紀に入り、空飛ぶ車やメタバースといった未来感がグッと増してきた中、実は人間は何も進歩していない、と何とも言えない思いになります。
著者 逢坂冬馬氏の「最悪な形で同時代性を背負ってしまった」という言葉が印象的です。
【参考記事】 逢坂冬馬さん「最悪な形で同時代性を背負ってしまった」…本屋大賞に「同志少女よ、敵を撃て」
『同志少女よ、敵を撃て』作品情報

簡単なあらすじ
1942年独ソ戦渦中のモスクワ、少女セラフィマは突如ドイツ兵に村を襲われる。
母親を含め村民が皆殺しにされ、セラフィマも殺される寸前だったが、ソ連軍の女性狙撃兵、イリーナたちに救出される。
全てを失ったセラフィマはイリーナに問われる。「戦いたいか?死にたいか?」
セラフィマは仇を討つため、自身の「敵」を撃つため、狙撃兵になることを決意するー。
主な登場人物・人物相関図

セラフィマはドイツ兵だけでなく、自分を救ってくれたイリーナにも復讐心を抱きます。理由は救出時に母と自分に対し侮辱的な言動をとったため。
「いつか殺す」と言っている少女にイリーナ自身が狙撃を教えるという複雑な関係です。
『同志少女よ、敵を撃て』詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、正確な表記が不明/誤りがある場合があります。漢字はwikipediaや本を参照。
| 訓練校 関連 | |
|---|---|
| セラフィマ | 狙撃訓練学校に入校。愛称フィーマ。ドイツ語が話せる。1924年生まれ |
| エカチェリーナ | セラフィマの母 |
| ミハエル | セラフィマの幼なじみの男の子。愛称ミーシカ。 |
| アントーノフ | セラフィマの村の村民。 |
| イリーナ | ソ連の女性狙撃兵。狙撃訓練学校教官長。 |
| ノーラ | 中央女性狙撃兵訓練学校 校長 |
| シャルロッタ | 訓練兵。モスクワ射撃大会優勝者。 |
| ヤーナ | 訓練兵。最年長。28歳。愛称「ママ」 |
| アヤ | 訓練兵。カザフ人の漁師。狙撃の天才。 |
| オリガ | 訓練兵。ウクライナ出身のコサック。 |
| ソ連赤軍 関連 | |
|---|---|
| リュドリナ・パブリチェンコ | 実在した英雄的な女性狙撃兵。 |
| ハトゥナ | NKVD(内務人民委員部)の一員。イリーナの天敵。 |
| ザイチェフ | 狙撃兵。 |
| ジューコク閣下 | 赤軍上級大将。 |
| ニコラーエフ | 少佐。 |
| イーゴリ | 隊長。 |
| フルシチョフ | ー。 |
| ボリスキー | ー。 |
| ターニャ | 第39独立小隊の一員。看護師。イリーナに声を掛けられ参加。 |
| マクシム | 第62軍 第13師団 第12歩兵台 隊長。 |
| ヒョードル | 同隊 兵士。 |
| ボグダン | 同隊 特戦隊。 |
| ユリアン | 同隊 狙撃兵。恩師はザイチェフ。 |
| ドイツ軍 関連 | |
|---|---|
| イエーガー | エカチェリーナを撃ったドイツの狙撃兵。顔に傷。 |
| フリードリヒ・パウルス | 元帥。 |
| ベルクマン | イエーガーの教え子の狙撃兵。 |
| ユルゲン | 捕虜。 |
| その他 | |
|---|---|
| サンドラ | 占領下のソ連の人民。 |
| アンナ、ベーラ | パルチザン。 |
| マーシャ・ニコライ | 赤軍の基地で知り合った子ども。 |
専門用語・俗語
| パルチザン | 非合法の戦闘員 |
| フリッツ | ソ連兵が『ドイツ兵』を指す隠語 |
| カッコウ | ソ連兵が『敵の狙撃兵』を指す隠語 |
| イワン | 『ソ連兵』を指す隠語 |
| フィービー | ドイツ軍のスパイ。 |
『同志少女よ、敵を撃て』ナレーションについて

ナレーションは『青木 瑠璃子』氏一人。
「話題作はナレーションも間違いない」という経験則通り、とても良かったです。
特に少女達のキャラを反映した声の使い分けが巧み。
気の強さと人懐っこさを併せ持ったシャルロッテの声色はピッタリだと感じます。
難点は、仕方ないことですがロシアの人名や地名がわかりづらいです。
聴き返しても認識しにくい言葉がありました。
あとがき

この作品は戦争に関する事象は当然事実を含んでいて、登場人物も一部実在するということです。
セラフィマ、イリーナなど主要キャラは架空ですが、ソ連軍のリュドリナ・パブリチェンコなど女性狙撃手がいたという事自体は事実だそうです。
この記事では自身が全く気にせず楽しめたので触れてませんし、今もよく知りません。タイミング的にも歴史との符合より今の現実との重なり方に意識がいく作品でした。
史実を知らなくても問題ないですが、気になる方は事前に確認してみるといいかと思います。
| 著者 | 逢坂 冬馬 |
| ナレーター | 青木 瑠璃子 |
| 再生時間 | 15 時間 34 分 |
| 発行年 | 2022 |
| 配信日 | 2022/4/1 |
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