伊坂幸太郎『グラスホッパー』(2004)。
『物騒な業者』をテーマにしたシリーズの第一弾です。
『物騒な業者』は作中の呼び方で、平たくいうと主に『殺し屋』のこと。
2022年現在『マリアビートル/AX(アックス)』と三作刊行されてます。
シリーズと言っても、メインの登場人物が異なるので、どこから読んでも問題はありません。
闇組織のトップの長男に妻を殺された鈴木が復讐のために組織に潜入。期せずして蝉、槿(アサガオ)、鯨といった物騒な業者が入り乱れた乱戦に巻き込まれる。
序盤から物語の全体像を予感させる要素があまりなく、読んでて『そういえばこの物語はどこへ向かってるんだろう?』と感じました。
明確な主人公がいる訳でもないので、最初の方は個々のストーリーが点在してる印象を受けます。
シリーズ3作を通して一つの共通点として挙げられるのは『殺し屋同士の殺し合い』。
本作も込み入ったストーリーの筋より、ユニークな殺し屋達のキャラクターとバトルを楽しむ作品だと思います。
- 生田斗真主演で映画化(2015)
『グラスホッパー』ショートレビュー・注目ポイント
- ユニークなキャラクターを持つ殺し屋たちの三つ巴戦
ユニークなキャラクターを持つ殺し屋たちの三つ巴戦
本作で登場する主な『業者』は槿/鯨/蝉の3人。それぞれ独自の殺し方と独特なキャラクターを持っています。
槿はターゲットを押して交通事故などで殺す、『押し屋』。
寺原長男への犯行後、鈴木が跡を追うと妻子とごく普通の家庭を築いていて、鈴木は戸惑います。
鯨はターゲットに遺書を書かせ、自殺を強要する殺し屋。
愛読書は『罪と罰』で、今まで殺したターゲットの『亡霊』に悩まされています。
蝉はナイフを得意とする若者。
マネージャー的存在のイワニシと組んで仕事をしてますが、偉そうな態度を常々不満に思ってます。
そんな三者三様の殺し屋がお互い面識もないまま、半ば成り行き的に殺し合いに発展していきます。
伊坂作品は登場人物のキャラクターや掛け合いが魅力ですが、本作はとりわけそういったキャラや会話を楽しむ比重が大きい作品だと思います。
物語的にあまり脈絡がないというか、殺し合いが着地点としてあっても互いに深い因縁がある訳でもないので。
特に印象に残ったキャラは、セミの相棒・イワニシ。
伝説的ミュージシャン『ジャック・クリスピン曰く〜』が口癖で、すごく伊坂作品らしさを感じるキャラクター。
未読で『ジャック・クリスピン曰く〜が口癖のキャラが登場する小説は?』と聞かれても、すぐに伊坂作品のどれかだなとピンときそうです。
『グラスホッパー』作品内容
簡単なあらすじ
元教師の鈴木は妻を裏組織の社長・寺原の長男に殺され、復讐のために組織に潜入する。
しかし、唐突にその長男が車に撥ねられる。長男を車道に押したのは『押し屋/槿(アサガオ)』という殺し屋らしい。
上司に命じられ、押し屋の跡を追う鈴木。
さらに『蝉・鯨』と言った殺しを生業とした物騒な業者が入り乱れて、鈴木は当初の目的を失ったまま翻弄されていくー。
序盤、鈴木(槿)/蝉/鯨の3者の視点で並行して話が進みます。
それが徐々に交錯していき火花を散らす、という伊坂作品らしい構成になってます。
タイトルの『グラスホッパー』の意味は『バッタ』。
『蝉、鯨』がいるので、バッタという殺し屋も出てきそうですが、『バッタ』は出てきません。
主な登場人物・人物相関図
![](https://guideandreviews-library.com/wp-content/uploads/2022/09/grasshopper-ik-soukanzu01-1024x1024.png)
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてもらえたらと思います。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。
鈴木 | 元教師。物騒な組織のトップ・寺原の長男に妻を殺されて復讐をもくろむ。 |
槿 | 『押し屋』。寺原長男を殺害? 妻すみれ |
鯨 | 殺し屋。自殺に偽装してターゲットを殺す。 |
蝉 | 殺し屋。ナイフが得意。 |
岩西 | 蝉の仕事の仲介役。口癖は「ジャック・クリスピン曰く」。 |
寺原 | 物騒な業者『フロイライン』のトップ。 |
寺原長男 | 寺原の息子。鈴木の妻を殺害。 |
比与子 | フロイライン幹部。鈴木の上司 |
梶 | 衆議院議員。 |
秘書 | 梶議員の秘書。 |
田中 | ホームレス。40代。 |
桃 | 物騒な業界の情報屋 兼 ポルノ雑誌店店主。 |
シバ | 『業界』の人間。『シバ』は蝉がつけたあだ名。 |
トサ | 『業界』の人間。『トサ』は蝉がつけたあだ名。 |
シリーズ・聴き順
『物騒な業者』シリーズは2024年時点で4作発表されてます。
タイトル | 出版年 | Audible作品 |
---|---|---|
グラスホッパー | 2007 | ◯ |
マリアビートル | 2013 | ◯ |
AX | 2020 | ◯ |
777 トリプルセブン | 2023 | ◯ |
シリーズで共通してるのは『殺し屋たちの戦い』というコンセプト。
全作メインの登場人物が同じ訳でも、ストーリーが続いてる訳でもないので、基本的にどこから聴いても問題ありません。
ただ、『マリアビートル・777』は運の悪い殺し屋・七尾が主要人物なので、順番に聴くのが良いかと思います。
それ以外も特に気になる作品がないのであれば、シリーズ順が妥当だと思います。
その上で、『一番面白いものから聴きたい』という方にお勧めを挙げると、ハリウッド映画化もしている『マリアビートル』です。
シリーズ関連記事
『グラスホッパー』ナレーションについて
ナレーターは『原島 梢』氏一人。
二作目『マリアビートル』も担当しています。
メインの登場人物はほぼ男性ですが、ハマっていると思いますし、伊坂作品全般に合いそうです。
子ども、女性はもちろん、若くて元気のある蝉のような男性も合ってます。属性的に一番遠そうな巨体の中年男性、鯨も違和感ありません。
小声で話す癖のあるコジロウという子どもの声が特に可愛らしく印象的です。
あとがき
シリーズ間で直接的なつながりはないですが、続編に再登場するキャラもいます。
ある人物は『マリアビートル』でもさりげなく登場して後日談的なストーリーが語られます。
本書のあと『マリアビートル』を読む場合はその辺にも注目して読むと面白いかと思います。
著者 | 伊坂 幸太郎 |
ナレーター | 原島 梢 |
再生時間 | 10 時間 2 分 |
発行年 | 2004 |
配信日 | 2016/11/24 |
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