伊坂幸太郎『マリアビートル』(2010)。
『物騒な業者』をテーマにしたシリーズ全4作の2作目です(2024年時点)。
元殺し屋の木村。性格が正反対のコンビ蜜柑と檸檬。不運に取り憑かれた七尾。そして凶悪な魂を持つ中学生・王子。
新幹線に居合わせた『物騒な業者』達と一人の中学生が、偶発的/計画的に接触し、誰もが予期しない殺し合いに発展する。
『ペッパーズゴースト』の惹句で『伊坂作品の集大成』と形容されてますが、個人的にはこちらの方が『集大成』を感じました。
読後しばらくしてハリウッドでブラッド・ピット主演で映画化。原題は『Bullet Train』。
映画化が多い伊坂作品の中でもハリウッド進出は初の快挙です。
『マリアビートル』ショートレビュー・注目ポイント

- 物騒な業者たちが意図的/偶発的に乗り合わせた新幹線で巻き起こる生き残りバトル
- 『主人公不在』だからこそ、誰がいつ死ぬか予想できない展開
- 善良な表の顔と凶悪な裏の顔をもつ、中学生の王子
物騒な業者たちが意図的/偶発的に乗り合わせた新幹線で巻き起こる生き残りバトル
主な登場人物は5人。
『物騒な業者』の木村、蜜柑・檸檬コンビ、七尾、そして中学生の王子。
木村の目的は王子への復讐。
蜜柑・檸檬は仕事帰りに『戦利品』と共に移動中。
七尾の目的は蜜柑・檸檬の『戦利品』の一つを奪うこと。
元々、明確な攻撃対象は木村→王子のみ。
しかし、いつのまにか全員を巻き込んだ生き残りバトルに発展していきます。
さらに他にも物騒な業者が登場して、粛々と疾走する新幹線の中で次々と死体が増えていく様は異様でありスリリングです。
この『動く密室』という舞台設定がオープンな空間にはない、なんとも言えない緊迫感を生んでます。
『主人公不在』だからこそ、誰がいつ死ぬか予想できない展開
この作品は『明確な主人公がいないこと』がポイントになってると思います。
主人公がいる場合、その主人公が死ぬ確率は限りなく低く、例えばルパンがどれだけ銃弾の雨に晒されても安心して観ていられます。
でも、この作品は特定の主人公はいないので、どんなキャラでも『退場』することがありえます。
そういった作品の性質上、本作では終始『誰がいつ死んでもおかしくない』緊張感に充ちていて、序盤からラストまでに『え?この人が死ぬの?』が何度も訪れます。
また、その『逆』もあったりと、次から次へと意表をつく展開が魅力です。
善良な表の顔と凶悪な裏の顔をもつ、中学生の王子
物騒な大人たちの中で異質な存在が一見普通の中学生の王子。
この王子が一連の事態のキーパーソンになるんですが、一言で言えば『純粋な悪』のような存在です。
伊坂作品の悪人はむしろ愛嬌や人間味がある人物が多いです。本作の木村達もしかり。
しかし、王子の本性は悪意の塊。
良心の呵責なく他人をもて遊べる人間で、小さな子供相手でも残酷になれます。
イメージ的には『MONSTER』のヨハンや『Death Note』の夜神月に近い印象。でも、不快指数は断然上です。
そんな王子が『良い子のお面』を被ったまま、殺し屋たちの殺し合いの中で暗躍します。
『マリアビートル』作品情報

簡単なあらすじ
元殺し屋・キムラの息子は凶悪な中学生・王子によって瀕死の重傷を負う。
木村は息子の報復をすべく、王子が乗る新幹線に乗り込む。
しかし、そこには他にも様々な物騒な業者が乗り合わせておりー。
主な登場人物・人物相関図

『マリアビートル』主な登場人物・人物相関図
蜜柑と檸檬の由来について作中で触れられているか忘れましたが、両方文学作品のイメージがあります。
『蜜柑』は芥川龍之介。『檸檬』は梶井基次郎。
個人的に『檸檬』の方が文学的なイメージが強いので、『文学好きなのは蜜柑の方』は少しややこしいポイントでした。
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、正確な表記が不明/誤りがある場合があります。漢字はwikipediaや本を参照。
| 木村雄一 | 元業者。王子を狙い新幹線に乗車 |
| 王子慧 | 一見優等生な中学生だが、冷酷な顔を持つ。類い稀な強運 |
| 蜜柑 | 性格が正反対のコンビの『業者』。檸檬の相棒。文学好き |
| 檸檬 | 性格が正反対のコンビの『業者』。蜜柑の相棒。機関車トーマス好き |
| 七尾 | 常に不運に見舞われる『業者』 |
| 木村渉 | 木村雄一の息子。 |
| 木村茂 | 木村雄一の父親。元『業者』。妻 晃子 |
| 繁 | 木村茂の知人 |
| 峰岸良夫 | 裏社会の実力者。息子の救出を蜜柑と檸檬に依頼 |
| 峰岸の息子 | 監禁されていたところを蜜柑と檸檬により救出 |
| 真莉亜 | 七尾のパートナー |
| 狼 | 『業者』。七尾に恨みを持つ |
| スズメバチ ★ | 毒殺を得意とする『業者』。男女のコンビ? |
| 鈴木★ | 『グラスホッパー』に登場した元教師 |
| 槿 ★ | 『グラスホッパー』に登場した『業者/押し屋』 |
| モモ ★ | 物騒な業界の情報屋 兼 ポルノ雑誌店店主 |
シリーズ・聴き順について
『物騒な業者』シリーズは2024年時点で4作発表されてます。
| タイトル | Audible作品 | 再生時間 | 出版年 |
|---|---|---|---|
| グラスホッパー | ◯ | 10 時間 2 分 | 2007 |
| マリアビートル | ◯ | 19 時間 24 分 | 2013 |
| AX | ◯ | 10 時間 52 分 | 2020 |
| 777 トリプルセブン | ◯ | 10 時間 6 分 | 2023 |
シリーズで共通してるのは『殺し屋たちの戦い』というコンセプト。
全作、メインの登場人物が同じ訳でも、ストーリーが続いてる訳でもないので、基本的にどこから聴いても問題ありません。
続編には部分的に前作のエピソードが盛り込まれてるので、特に理由がなければ順番通りがいいと思います。
『マリアビートル・777』に関してはどちらも運の悪い殺し屋・七尾が主要人物。
そのため、順番に聴いた方が良いかと思います。『777』からでも支障はないと言えば支障はないですが。
個人的なおすすめはハリウッド映画化もしてる『マリアビートル』です。
シリーズ関連記事
『マリアビートル』ナレーションについて

ナレーターは『原島 梢』氏一人。
1作目の『グラスホッパー』も務めてます。
前作同様、安定した良さがありました。
何人か前作と同じ人物が登場したので、そういう意味でも連投で良かったと思います。
audibleのレビューにもありましたが、いくつか読み間違えてる漢字が気になりました。
あとがき

この作品はaudibleを聴き始めて、初めてハマった小説です。
つまり、オーディオブックにハマったキッカケであり、このブログ開設のキッカケになった作品とも言えます。
そんな背景もあって思い入れのある作品です。
中学生の王子に『凶悪さ』を感じた理由
王子は周りの大人たちに『なんで人を殺したらいけないの?』と度々質問します。
この質問自体については、そもそも大体の物事に根源的な根拠はないので、突き詰めて考えてもあまり意味がないと思えます。
それよりも、『なぜ〇〇はいけないのか?』という疑問の前提には、『〇〇したいのに』という欲求があることに目がいきます。
『なぜ〇〇はいけないのか?』と心から疑問に思うのは、切実に『〇〇したいのに』という欲求がある時です。
髪を染めたいと思わない生徒はそもそも『なんで校則で茶髪が禁止なんだ?』と疑問に思いません。
色々な大人に執拗に『なんで人を殺したらいけないの?』と聞く王子。
著者は特に意図した訳ではないかもしれませんが、そういう所からも王子の底知れない悪意を感じました。
| 著者 | 伊坂 幸太郎 |
| ナレーター | 原島 梢 |
| 再生時間 | 19 時間 24 分 |
| 発行年 | 2010 |
| 配信日 | 2016/12/21 |


