『死神の精度』紹介レビュー | 音楽好きの死神が見届ける『最期の7日間』

日本の小説
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伊坂幸太郎『死神の精度』(2005)。
表題作『死神の精度』をはじめ、6つの短編からなる連作短編集です。

各編、ストーリーと登場人物は異なりますが、『千葉という死神が人の生死を見届ける』という設定は共通してます。

作品内容・あらすじ

音楽好きな死神の仕事は、人の死の『最終確認』をすること。

死期が近い人間を7日間『調査』し、『可』と報告したら8日目に死が訪れる。

人の姿を借りた死神が目の前に現れた時、調査対象者の最期の1週間が始まるー。

死神の『仕事内容』は曖昧で、ストーリー的にも特に重要ではありません。

言動がちょっとおかしな死神と調査対象の人間との交流、それぞれの人生の妙味を楽しむ作品になってます。

  • 『死神の精度』…自身の不遇を嘆き、自ら死を望んでる若い女性
  • 『死神と藤田』…抗争で窮地に立たされてるヤクザ
  • 『吹雪に死神』…吹雪の洋館で殺人事件に巻き込まれる年配の女性
  • 『恋愛で死神』…恋してる女性にストーカー扱いされる青年
  • 『旅路を死神』…人を殺し、さらなる殺人を目論んでる若者
  • 『死神対老女』…海の近くの美容院で働く老女 

伊坂幸太郎の短編集は特に最終話が秀逸な印象があるんですが、本作もその例に漏れず。

それまで点在していたものが繋がり、心象風景の鮮やかさと眩しさがグッと増すような、何かジーンとする余韻が残るラストとなってます。

文学賞・映画化関連情報
  • 金城武主演で映画化『Sweet Rain 死神の精度』(2008)
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『死神の精度』ショートレビュー・注目ポイント

  • バラエティパックのようにさまざまなジャンルを取り揃えた短編集
  • 奇妙な死神と『奇妙』な人間が織りなす人間模様

バラエティパックのようにさまざまなジャンルを取り揃えた短編集

改めて各話を振り返ってみると、ジャンルがそれぞれ異なってます。

ある程度、便宜的に分類すると、
『死神の精度』はエンタメ・サスペンス。
『死神と藤田』はピカレスク・ヤクザ物。
『吹雪に死神』は殺人事件を題材にしたミステリー。
『恋愛で死神』は純愛小説。
『旅路を死神』はロードノベル。
『旅路を死神』は文学的・人間ドラマ。

主人公は同じなのに、これだけバラバラのジャンルが一つの短編集に収まっているのは珍しく面白い試みだと思います。

調査対象の属性も文字通り老若男女でバラバラ。

ジャンルも人物像も一貫性がなく、共通してる要素/テーマは死神と『死』のみ。

そう考えるとある種の死の公平さ・絶対さが際立つような構成になってます。

奇妙な死神と『奇妙』な人間が織りなす人間模様

主人公の千葉は死神特有の独特さ(人間とずれた感覚)と、本人特有の独特なキャラクターを持ってます。

前者は例えば、外国人的な言葉や慣習、常識のズレ。
『私は醜い』と言われたのに対して『いや見やすい。ハッキリ見える』と答えたり。

こういう言葉遊びの妙は伊坂作品らしい。

しかし、逆に死神にとっても人間の言動は奇妙に感じて、当たり前のことが死神の視点を通して新鮮に感じたりします。

そんな奇妙な死神と奇妙な人間のやりとりが面白く魅力的です。

本人特有のキャラクターで言うと、超がつく雨男。
千葉がこの世にいる時はずっと雨が降っていて晴天を見たことがありません。

よく見ないと気付きにくいですが、表紙で男(死神?)が傘を持ってるのはそういった設定からです。

また、いい加減に仕事をこなす死神もいる中、千葉の姿勢は社会人一年目並みに真面目。
ただ、そもそも仕事内容がぼんやりしてるので、真面目さをアピールされる程どこかシュールでもあります。

『死神の精度』作品情報

簡単なあらすじ

死神の仕事は死期が近い人間の元に訪れ、予定通り死んでも問題ないか確認すること。

7日間『調査』をし、『可』と報告すれば8日目に死が訪れる。

死神たちは皆音楽を好み、人間にも人の生死にも全く関心がない。

それでも死神の一人・千葉は真摯に仕事をこなすことをモットーとしていた。

死神は調査対象に合わせて年齢や外見を変えて接触を図ります。

そして、相手の性格や考えを知ることがどうやら『調査』のようなんですが、具体的なチェック項目などは分かりません。

死後の世界のメカニズム全般などにも特に触れられません。

とりあえず、普通は『可』で、何か特別な理由が出てきたら『見送り』になるようです。

各編のあらすじ

『死神の精度』
調査対象は藤本一恵。自分の人生の不遇さとクレーマー処理の仕事の毎日を嘆く若い女性。執拗に自分だけを指定する悪質なクレーマーに悩まされている。

『死神と藤田』
調査対象は藤田というヤクザ。千葉は藤田と敵対するヤクザの居所を知ってることで藤田と接触。抗争の行方を見守ることに。

『吹雪に死神』
調査対象は田村総江という年配の女性。吹雪の中、洋館に旅行で宿泊している。その洋館で宿泊客たちが殺害される事件が起こる。

『恋愛で死神』
調査対象は荻原という青年。近所の女性に恋をしてアプローチするもなぜか身に覚えのないストーカー呼ばわりをされる。

『旅路を死神』
調査対象は森岡耕介という殺人犯。千葉が運転する車を森岡が乗り込み、森岡がもう一人殺したい相手先に向かう道程に同行することに。

『死神対老女』
調査対象は海の近くの美容院で働く老女。老女は自分の死期が近いことを自覚しており、千葉が普通の人間ではないと敏感に気付く。

主な登場人物・人物相関図

短編なので相関関係はほぼないんですが、一応参考に。

『死神の精度』主な登場人物 相関図
『死神の精度』主な登場人物 相関図

『死神の精度』詳しい登場人物まとめ

オーディオブックだと頭に入ってこない事があるためなるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてもらえたらと思います。
※抜けている人物がいる可能性があります。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は公式かwikipedia参照。

『死神の精度』
千葉死神。音楽好き。亡くなる予定の人間を『調査』。22歳。
藤本一恵千葉の捜査対象。
電機メーカー勤務。クレーム処理担当。22歳。
クレーマー一恵に対して執拗にクレームの電話を入れる男。
『死神と藤田』
藤田千葉(40代)の捜査対象。
ヤクザ。45歳。
阿久津藤田の舎弟。
オヤジ藤田の組の組長。
栗木藤田とは別の組のヤクザ。
『吹雪に死神』
田村総江千葉の調査対象。
洋館の宿泊客。幹夫の妻。
田村幹夫洋館の宿泊客。開業医。
権藤洋館の宿泊客。定年退職した刑事。
権藤英一洋館の宿泊客。権藤の息子。
真由子洋館の宿泊客。20代の女優の卵。
料理人洋館の料理人。
秋田真由子の恋人(死神/千葉の同僚)。
カマタ田村の医院と取引をする医療器具の営業社員。
『恋愛で死神』
荻原千葉(25歳)の捜査対象。
ブティック勤務。23歳。
古川朝美映画配給会社勤務。21歳。
店長荻原が勤めるブティックの女性店長。
『旅路を死神』
森岡耕介千葉(30歳)の調査対象。
殺人犯。母カズエ。
深津森岡を誘拐。
『死神対老女』
老女千葉(25歳)の捜査対象。
美容院で働く。70歳。
タケコ美容院の客。
少年美容院の客。
長髪の男洋食店のビラ配り。
一恵歌手。

タイトル『死神の精度』の意味・由来

『死神の精度 ー ACCURACY OF DEATH ー』の意味は特に説明されてません。

そのため、個人的な解釈になりますが、基本的にはやはり『死神の仕事』に関することだと考えられます。

一話の冒頭にこんな千葉の言葉があります。

『人の死を見定めるために出向いてくる。なぜならば仕事だからだ。』

『精度』と『見定める』が関連してるところからも、タイトルは
『死神の仕事の精度=調査対象を見定め、生死を審判する精度』
と読み取ることができます。

そういう面で精度が『高い』か『低い』かでいうと、明らかに『低い』です。

死神の『審判』の内実は曖昧で、コイントスで決めたり気まぐれとしか思えない描写もあります。

『死神の精度』は低く不確か。平たく言ってしまうとテキトーでいい加減。

恣意的に一歩踏み込んで考えると、それは『人の生死の不確実さ』『いつどうなるか分からない人生の不条理さ』を表してるようにも感じられます。

シリーズ・聴き順

『死神』シリーズはで2作発表されており、『死神の千葉がターゲットの元に訪れ、最後の7日間を見届ける』という設定は共通してます。

タイトル形式再生時間
死神の精度(2005)6編の短編集10 時間 3 分
死神の浮力(2013)長編15 時間 39 分

大きな違いはボリュームで、続編の方がだいぶ長いです。

また、ストーリー的にも死神の設定の他に、『娘を殺された両親の復讐』という太い幹が加わります。

どちらがお勧めかというと、個人的には元々長編が好きなのもあって続編の方です。

読む順番は本作を飛ばしても問題ないと言えばないですが、両方読むのなら1作目から読むことをお勧めします。

順番通り読むと、続編で最初千葉が登場するシーンはよりテンションが上がるとは思います。

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『死神の精度』ナレーションについて

ナレーターは天満 智史氏一人。
続編の『死神の浮力』でもナレーターを務めてます。

やや中性的で淡々とした口調はクールな千葉のキャラクターと合ってると思います。

映画版だと死神をダンディな金城武が演じてるので、その印象で聞くと違和感を覚えるかもしれません。

▼ 読みの誤りに気づいた漢字メモ

箇所意味
相好を崩す『死神対老女』56分頃笑みをこぼすそうこうそうごう

あとがき

少し前に視聴した『AX』と言う連作短編集もそうだったんですが、最終話が頭一つ抜けて良かったです。

最終話前までは佳作だったのが最終話で『さすが伊坂幸太郎。読んでよかった』と思う名作にグッと押し上げられるというか。
この辺りに人気作家の人気作家たる所以を実感します。

映画化もこの最終話があってこそと感じます。

\ 定額聴き放題 ! amazonのオーディオブック/
著者伊坂 幸太郎
ナレーター天満 智史
再生時間10 時間 3 分
発行年2005
配信日2019/02/15
『死神の精度』audible基本情報

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