『死刑にいたる病』櫛木理宇 著(2017)。
シリアルキラーをテーマにしたサイコミステリーです。
『8件の殺人は認めるが、9件目は自分じゃない。冤罪証明に協力してほしい』
ある日、大学生の雅也の元に死刑囚の連続殺人犯・榛村大和から手紙が届く。
子供の頃、パン屋の店主だった榛村によくしてもらっていた雅也。
事件の調査を引き受けることにしたが、次第に浮かび上がってきたのはある残酷な真実だった。
榛村は9件の殺人事件によって死刑が確定してる連続殺人犯です。
それも海外の猟奇的なシリアルキラーを彷彿とさせる快楽殺人鬼です。
容姿端麗で、人間的魅力に溢れ、かつ残虐非道。イメージ的にはかの有名なテッド・バンディに近いです。年齢もテッド・バンディの享年と同じ42歳。
その榛村から、かつての榛村のパン屋の客だった大学生・筧井雅也の元に手紙が届きます。
榛村曰く『死刑は受け入れるが、自分がやってない9件目の罪まで負いたくない。調査に協力してほしい』。
確かに特定の好みの被害者を狙う榛村にしては9件目だけタイプが異なります。死刑自体は揺るがないので嘘をつく理由も見当たらない。
雅也は頼みを引き受けることにしますが、当然その先には一筋縄ではいかない事態が待ち受けています。
物語の主題の一つは
『9件目の殺人は本当に冤罪なのか?だとしたら真犯人は?』。
他にも、
『なぜ榛村はパン屋の客だった雅也を頼ったのか?』
『榛村の真の目的は?本当の恐ろしさとは?』
と様々な謎と真相が浮かび上がってきます。
全てが明らかになった後、この作品の何よりの救いは榛村がただ死刑を待つ身である事だと改めて思わされます。
本作は2022年に阿部サダヲ主演で映画化。
小説の榛村とはタイプが違うかもしれませんが、どちらも底知れない怖さを感じます。
『死刑にいたる病』ショートレビュー・注目ポイント
物語の重要なネタバレには触れず、注目ポイントを紹介。
- 凶行にいたるまでの過去・背景に焦点を当て『シリアルキラー』を描く
- 稀代の殺人鬼・榛村大和の影響を受け変化していく元優等生・雅也
凶行にいたるまでの過去・背景に焦点を当て『シリアルキラー』を描く
これは一読者として感じる傾向ですが、フィクションでは意外と多くないパターンだと思います。
『シリアルキラー/サイコキラー』は日本のエンタメ作品によく登場します。
その際、フィーチャーされるのは分かりやすく目に見える『悪』の部分。
おそらくエンタメという性質もあって、あまり込み入った内面性には触れられない印象があります。
例えば、貴志佑介『悪の教典』の蓮実聖司。
または、伊坂幸太郎『マリアビートル』の”王子”、『死神の浮力』の本城崇など。
(奇しくも榛村の子どもの時のあだ名も”王子”)
彼らはまるで生まれた時から純粋な悪のような存在です。
対して、榛村は知人達の証言を元に過去が深く掘り下げられます。
ボリューム的には全六章中二章分近く。
そして、証言により明らかになるのは、榛村の幼少期の虐待を含む壮絶な過去。
脳には物理的な欠損すら負ってます。
自分は一時期シリアルキラーのルポを10冊ほど読んだことがあるんですが、一つ印象的だったのは『シリアルキラーの異常な過去』。
彼らの多くは異常な行為もやむ無しと思える程、異常な体験をしています。特に幼少期に。
そのため、凶行に至る過程も仔細に描いている本書にはすごくリアリティを感じました。
また、リアリティの追求だけでなく、高いエンタメ性も両立してる。その点が本作の突出してるポイントであり、魅力だと思います。
稀代の殺人鬼・榛村大和の影響を受け変化していく元優等生・雅也
主人公は鬱屈とした大学生活を送る筧井雅也。
中学までは順風満帆な優等生だったこともあり、冒頭からかなりこじらせたメンタリティが伺えます。
強いエリート意識と劣等感が混濁し、人としてだいぶ不安定な状態です。
一方、シリアルキラーは時として『畏怖の対象』となり、榛村もカリスマ性すら帯びた魅力的な人物です。
そんな稀代の連続殺人鬼とアイデンティティー危機に陥ってる若者が出会うとどうなるのか?
果たして榛村と付き合い始めた雅也に変化が訪れ、その様は次第に危うさを帯びていき…。
事件の全容と共に二人の関係性も大きなポイントになってきます。
『死刑にいたる病』作品情報
主な登場人物・人物相関図

詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、正確な表記が不明/誤りがある場合があります。漢字はwikipediaや本を参照。
本作は名前のない登場人物が多いです。
| 榛村大和 | 9件の殺人事件で死刑判決を受ける。42歳。元パン屋の店主。 |
| 筧井雅也 | 大学生。子供の頃にパン屋の客として榛村と出会う。 |
| 金山一輝 | 謎の男性。35歳。 |
| 根津かおる | 榛村の9件目の殺人事件の被害者(?)。経理事務。 |
| 筧井衿子 | 雅也の母親。 |
| 筧井和夫 | 雅也の父親(小説では名前は出てこなかったかもしれません) |
| 新井実葉子 | 榛村の母親。知的に『グレーゾーン』。 |
| 榛村織子 | 榛村の養母。人権活動家。 |
| (榛村の父親) | 地元で有名な『偉物』。 |
| (榛村の養父) | 養父の一人。元溶接工。通り名『死に損ないのセイイチ』。 |
| (榛村の養父) | 最後の養父。榛村大和に思いやりを持って接する。 |
| 加納灯里 | 雅也の小学校と大学の同級生。 |
雅也は主に下記の榛村の関係者達を尋ね、榛村の過去について聞いていきます。
| 榛村の関係者/その他 | |
|---|---|
| エザキ | 定年した老教師。榛村の元担任。 |
| サムラ | 榛村の主任弁護士。 |
| ナラオカ | 榛村の元保護士。 |
| (実葉子のいとこの女性) | 榛村の実母・実葉子のいとこ。榛村が子供の時に世話をする。 |
| (榛村の同級生の男性) | 小中の同級生。学生時代の2つの事件を雅也に証言。 |
| (榛村の同級生の女性) | 小中の同級生。榛村に同情的。 |
| (老爺) | 榛村がベーカリーを営業していた時の隣人。 |
| (元常連客の女性) | 榛村のベーカリー『ロシェル』の常連。 |
| (元常連客の女性) | 榛村と一時期交際する。30代。 |
| (ベリーショートの女性) | 榛村に魅了される。30代くらい。 |
| (根津の同級生の女性) | 根津かおるの学生時代の様子を証言。 |
| キダ | 金山一輝の小学校の教師。 |
| ソウマ | 金山の元同僚。システム開発会社の営業。 |
| 滝内 | 榛村大和と同じボランティアグループ。 |
| ケン | 榛村織子の養子の一人。榛村大和と同じボランティアグループ。 |
『死刑にいたる病』タイトルの意味・由来について
タイトルはキエルケゴールの著名な哲学書『死に至る病』が元になっています。
『死に至る病』を文字った作品は他にも『殺戮にいたる病(我孫子武丸)』が有名です。
本書の冒頭では『死に至る病』の一節が引用されてます。
『絶望とは死に至る病である。』
ここからは私見ですが、キエルケゴールの著作と本書がどこまでリンクしてるかはちょっと分かりません。
ただ、何かしらリンクする点があるにしても、それ以上に本書は『一人の人間が凶行に及び、死刑にいたるまでの過去・背景』に重点を置き、克明に描いた作品になってます。
そして、その過去・背景は『病的な何か』に満ちており、榛村に『病的な何か』を芽生えさせたものです。
『死刑にいたる病』というタイトルはまずはそんな作品の特徴を表してるのではないかと思います。
『死刑にいたる病』ナレーションについて
ナレーターは平田 楓人氏一人です。
記事執筆時(2023.04)、レビュー平均は3.3で正直かなり低めです。
主な理由は次の2つのようです。
- 読み方が単調で棒読み感がある
- 漢字の読み間違えが多い
一つ目はフォロー的な見方をすると主人公の雅也の不安定な人格を汲んだ読み方とも考えられます。
つまり、純粋にナレーターの力量というよりディレクションの領域の問題かもしれません。
いずれにせよ、個人的には再生速度を早めにすれば概ね気にならないことが多いので問題なしでした。
2つ目は確かに読み間違えが少なくなかったです。
▼漢字について気づいた事memo
| 箇所 | 誤 | 正 | |
|---|---|---|---|
| 甘言 | 1章3 04:55頃 | あまごと | かんげん |
| 言下 | 1章5 13:25頃 | ことした | げんか |
| イメージを抱く | 4章3 09:40頃 | だく | いだく |
| 軽んじる | 6章5 07:50頃 | かる | かろ |
あとがき
欠点ではないですが、やや難ありと思ったポイントが2つ。
一つは、前半『榛村の過去』に関するボリュームが多いこと。
『なぜ過去の話ばかり?9件目の冤罪調査が主題では?』と感じる人もいるかもしれません。
その点は上で書いてきたように作品の趣向として理解できるかと思います。
もう一つは、『誰視点の何の話か分からない』シーンがいくつかあること。プロローグからしてそうです。
これは当然後から判明する内容ではあるんですが、最初は分からなすぎてそのまま失念、後からピンとこないことも結構ありそうです。
『ここがあの時のあれに繋がるのか』と中々なりにくいような…。
この点は構成上やや難ありなんじゃないかと思いました。
audibleの場合、bookmark機能でメモを残しておくといいかもしれません。
| 著者 | 櫛木 理宇 |
| ナレーター | 平田 楓人 |
| 再生時間 | 11 時間 50 分 |
| 発行年 | 2017 |
| 配信日 | 2022/08/12 |

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