『暗殺』(柴田 哲孝 著)をAudibleで聴いたので作品内容や注目ポイントを紹介します。
▽ あらすじ
元総理が凶弾に倒れ、その場にいた一人の男が捕まった。
日本の未来を奪った2発の弾丸。
本当に“彼”が、元総理を撃ったのか?
日本を震撼させた実際の事件をモチーフに膨大な取材で描く、傑作サスペンス。
奈良県で日本の元内閣総理大臣が撃たれ、死亡した。その場で取り押さえられたのは41歳男性の容疑者。男は手製の銃で背後から被害者を強襲。犯行の動機として、元総理とある宗教団体とのつながりを主張した――。
日本史上最長政権を築いた元総理が殺された、前代未聞の凶行。しかし、この事件では多くの疑問点が見逃されていた。致命傷となった銃弾が、現場から見つかっていない。被害者の体からは、容疑者が放ったのとは逆方向から撃たれた銃創が見つかった。そして、警察の現場検証は事件発生から5日後まで行われなかった。
引用:Amazon/Audibe (太字引用者)
警察は何を隠しているのか? 真犯人は誰だ?
『暗殺』ショートレビュー・注目ポイント

安倍元首相暗殺事件をモデルにした暗殺事件の「舞台裏」を追体験
題材になっているのは明確に2022年の『安倍元首相暗殺事件』です。
小説の大枠のプロット
『一人の不遇な中年男性がカルト宗教団体に対する恨みから元首相を2発の凶弾で暗殺』
はそのまま事実を踏襲しています。
実際の安倍元首相の事件では様々な疑問点が指摘され、憶測・陰謀論が生まれました。
「真犯人は他にいる。別の場所にスナイパーがいた」など。
本作では事件前から首謀者を始めとする関係者の思惑と動きを緻密に描いていき、事件にまつわる数々の疑問を『解明』。
歴史的暗殺事件の『全貌』をつぶさに目撃できる、という所が一番の見所になってます。
『本当の暗殺理由』も割と序盤で明らかになるんですが、これはかなり意外でした。予想できる人はいないんじゃないかと思います。
細部まで現実の事件を忠実に再現
自分の実際の事件の知識はニュースの情報と鈴木エイト氏のルポを2冊ほど聴いたくらい。
(ルポはタイトルの印象ほど山上徹也の深層に迫ってる感はないものの、事件の全体像は分かりやすくまとまっています。)
ある程度予備知識を持って聴くと『ここまで符合させるか』と思うくらい現実と一致する点が見受けられます。
- 教団と暗殺された元首相の関係(祖父の元首相の代からの繋がり)
- 教団の内情。内部分裂しており、息子はアメリカで『銃の教会』を設立
- 暗殺犯・上沼一家の背景。母の教団への献金で家族が崩壊し、兄は自殺。上沼は自衛隊に入隊。
現実で既に明るみになってる情報は本当に忠実に再現し、裏側部分を大胆にフィクションで作り上げる、というアプローチが見られます。
作品は大きく分けると2部構成
前半は暗殺犯(グループ)が暗殺を計画し実行するまでの経過。
後半は暗殺後、一人の雑誌記者が事件の真相に迫る様子が描かれてます。
と言っても、後半読者はすでに真相を知ってます。
そのため、鑑賞ポイントとしては「首相暗殺」という巨大な闇に手を突っ込んだ記者は一体どうなるのか?というところ。
本作は事件そのものが主役という感がありますが、強いて言えば、この雑誌記者「一ノ瀬」が主人公に近い存在です。
ちなみに現実での最重要人物は山上ですが、作中の犯人「上沼」にはそこまでスポットが当たっていません。
『暗殺』作品情報

主な登場人物・人物相関図
物語の前半から『首謀者たちの暗殺計画〜実行』パートなので、『真犯人は誰か?』に重点は置かれてません。

詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、正確な表記が不明/誤りがある場合があります。漢字はwikipediaや本を参照。
モデルは個人的な推測で分かる範囲で記載してます。
| 首謀グループ関連 | モデル | |
|---|---|---|
| 高野晃則 | 日本皇道会総裁。禁厭を発令し、田布施首相を暗殺。 『日本民族派右翼の巨魁』。政界のフィクサー。 三島由紀夫の『楯の会・三島事件』に触発され、日本皇道会創設。 | |
| 山道義長 | 民族派右翼の若手有力者。 神道系新興宗教団体「神の守人(カミノモリビト)」の副総裁。 | |
| 戸塚正夫 | 警視庁OB。 | |
| 倉田康誠 | 防衛庁統合幕僚幹部 | |
| 三井俊彦 | 海上幕僚幹部。倉田の部下。上沼との連絡係 | |
| 豊田敏雄 | 自由憲民党 反田布施派。 政治資金集めとオリンピック利権で田布施派と対立。 | |
| シャドウ | 暗殺実行犯の一人。58歳。別名『アンドユン・田中道夫』 民独(日本民族独立義勇軍)の関係者? | |
| 上沼卓也 | 暗殺実行犯の一人。39歳。元海自。測量技師。 母・上沼亜希子が世界合同教会信者。3人兄弟で父親と兄が自殺。 (snsアカウント・サイレントバード333) | 山上徹也 (サイレントヒル333) |
| くすだ | 測量会社社長。元々、首謀者関連の組織の人間。 | |
| 蓮見忠志 | 現職の警視庁警備運用課。戸塚と連携をとる。 | |
| 竹田正堂 | 神道系右翼。日本神道連議会会長。 | |
| まえだ | 元軍人。シャドウとの連絡係。 | |
| こんどう よしはる | 自由憲民党議員。 |
| 雑誌社・調査関連 | |
|---|---|
| 一ノ瀬正隆 | 雑誌『週刊サブジェクト』契約記者。暗殺事件を独自に調査。 |
| 高村美恵 | 同 契約記者。38歳。一ノ瀬の調査に協力。 |
| もりもと まこと | 同 編集長 |
| よしむら ただひこ | 同 副編集長 |
| ますだ なおき | 同 担当デスク。一ノ瀬の直属の上司(年下)。 |
| ささき じろう | 同 編集局長 |
| さとう まさはる | 同 編集局次長 |
| 石井継男 | 元兵庫県警の刑事。一ノ瀬の調査に協力。 |
| ひらやま たくじ | 事件現場近くのビルの不動産の営業マン。 |
| 田村賢二 | 日本民主研究所。60歳過ぎ。高村美恵の知人。 |
| けんすけ | 一ノ瀬が通う文壇バーのバーテンダー |
| おおつ よしひこ | バーの客。銃器評論家。 |
| 香田義雄 | バーの客。昭和史が専門の作家。 |
| 自由憲民党・その他 | モデル | |
|---|---|---|
| 田布施博之 | 元首相。 | 安倍晋三 |
| 田布施章一郎 | 田布施博之の父。 | 安倍晋太郎 |
| 島義男 | 田布施博之の祖父。元首相。世界合同キリスト教教会と蜜月関係を築く | 岸信介 |
| 原芳正 | 官房長官。新元号「令和」発表 | |
| にしかわ のりみつ | 田布施の秘書。 | |
| よしかわ ひろのぶ | 東京高等検察庁・検事長。田布施が検事長に任命。 | (ポジション的に) 黒川弘務 |
| ふじた きよし | 選挙に出馬。田布施元首相が事件当日、応援演説。 | (状況的に) 佐藤啓 |
| よしむら | 銃撃後に駆けつけた近隣の医師 | |
| 有田剛志 | 公安調査庁・経済安全保障特別調査室 主任調査官。事件の真相を独自に追及。 | |
| 篠山宗太 | 公安調査庁・調査第一部・テロ情報課課長。有田の元部下。 | |
| 楠本正浩 | 69歳。ジャーナリスト。運営ブログに上沼がコメントを残す。 | 米本和広 |
| 鈴木啓一 | リクルート事件のきっかけとなるスクープをした朝日新聞記者。2006年に自殺(?) | 実在 |
| 平田聡 | 朝日監査法人会計士。2003年に自殺(?) | 実在 |
| 西宮伸一 | 前外務審議官。60歳で病死(?) | 実在 |
| 石井誠 | 郵政民営化の批判記事を書いた読売新聞政治部記者。 2007年、後ろ手に手錠をかけられ、口に靴下を入った状態で窒息するという『事故』で死亡。 | 実在 |
| おかむら あらた | (前)警察庁長官。暗殺事件で引責辞任。 | |
| 三浦義一 | 右翼。東京タワー建築時にアメリカとの材料調達の交渉役を担う。 | 実在 |
| 児玉誉士夫 | 右翼。ロッキード事件の際に暗躍。 | 実在 |
| ドナルド・トランプ | 共和党。 | 実在 |
| 朝日新聞・阪神支局 | 赤報隊事件で襲撃された被害者 | モデル |
|---|---|---|
| 犬飼兵衛 | 記者。42歳。 | 実在 |
| 高山顕治 | 記者。25歳。 | 実在 |
| 小尻知博 | 記者。29歳(享年)。 | 実在 |
| 大島 | 支局長。襲撃時に不在。 | 実在 |
| 組織 | モデル | |
|---|---|---|
| 世界平和合同家族教会 (旧世界合同キリスト教教会) | 朴天明(パク・チョンミョン)が開祖。 妻は金英子(キム・ヨンジャ) | 世界平和統一家庭連合 (旧統一教会) 文鮮明/韓鶴子 |
| 世界しんいき教会 | 銃の教会。朴天明の6男・朴天進(パク・チョンジン)が開祖 | 文鮮明氏の7男・文亨進 |
| 民独 | 日本民族独立義勇軍。 | 実在 |
| KCIA | 大韓民国中央情報部 | 実在 |
| Qアノン | アメリカの極右が提唱している陰謀論とそれに基づく政治運動 | 実在 |
| NRA | 全米ライフル協会 | 実在 |
| 赤報隊 | 右翼組織。1987年に朝日新聞阪神支局を散弾銃で銃撃した「赤報隊事件」を起こす。 | 実在 |
| 鋭和重機工業 | エアライフル『鋭和3B(スリービー)』を製造。 | 旧統一教会の関連企業の統一グループ。 『鋭和BBB』を製造。 |
登場人物の補足
『田布施』元首相の名前の由来は山口県田布施町
『暗殺』発行元の幻冬舎代表・見城氏は次のようにコメントしてます。
『田布施の名前の由来は安倍元首相や祖父の岸信介、佐藤栄作元首相の地元・山口県田布施町。』
『山口県は8人も首相を輩出していて、『(山口県)田布施』は首相を象徴するような名前』
参考動画:【安倍晋三】銃撃事件から2年…生前の知られざる素顔
https://www.youtube.com/watch?v=8OeFjkCIuEU
作中、上沼卓也がコメントを送ったブログ運営者のモデルは米本和広氏
実際の犯人・山上徹也が犯行前にあるブログにコメントを残していたことは広く知られてます。
コメントの内容は『喉から手が出るほど銃が欲しい』など。
作中の上沼も同様の行動をしており、そのブログ運営者・楠本正浩のモデルは、カルト宗教を追及しているルポライター・米本和広氏。
山上はジャーナリスト・鈴木エイト氏にもコンタクトをとってますが、それはSNSでのDM。
本作に鈴木エイト氏をモデルとした登場人物はいないと思われます。
ちなみに、鈴木エイト氏はルポ(「山上徹也」とは何者だったのか)で
『事件を政治的テロリズムとして片付けることによって見えなくなるものがあると感じる』
とコメント。
まさに事件の真相を政治的テロとして描いてる本書とは、全く相入れない主張をされてます。
『暗殺』ナレーションについて

ナレーションは『大谷 幸司』氏一人。
合ってない訳ではないですし、聴きやすい朗読でしたが、『テーマにしては声のトーンが軽め』という印象も最初ありました。
表紙の印象も相まって『地面師/あんべ あつし氏』のようなやや重々しいトーンかと思ったので。
暗殺計画中の会話とかも全然仰々しくなく、ある意味それが怖かったりもしました。
「一国の首相暗殺」について何でもないように結構サラッと話しています。
あとがき

全体的に淡々と事件を描いていき、ドラマチックな要素は少なめです。
でも、特に後半の雑誌記者のパートはシリアスな展開に引き込まれ、楽しめました。
登場人物のところでも触れましたが、作品に次の3つの要素が混在してる点は要注意です。
- 人物・事象が完全に事実と一致する
- 事実が元になっているが部分的にずらしている
- 人物・事象が完全にフィクション
はっきりどれか判別できる要素も多いですが、例えば、事件に使われた銃の詳細などはどこまで事実か全く分かりません。
ともすると小説の内容を事実として認識、記憶してしまいそうで、聴いててそういう不安も覚えました。
逆にフィクションかと思ったら事実ということもあり得ます。
基本的にはやはり現実とリンクさせすぎず、フィクションとして楽しむのがいいんじゃないかと思います。
| 著者 | 柴田 哲孝 |
| ナレーター | 大谷 幸司 |
| 再生時間 | 10 時間 20 分 |
| 発行年 | 2024 |
| 配信日 | 2024/09/20 |
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