『孤狼の血』柚月裕子 著(2015)。
昭和の広島を舞台にヤクザと警察の抗争が描いた作品です。
全3部作のシリーズで、続編に『凶犬の眼』『暴虎の牙』があります。
蘇る”仁義なき戦い” × 警察小説。
ヤクザのフロント企業『呉原金融』の経理が失踪した。
ヤクザとの癒着を噂される問題刑事 大上章吾は新人 日岡秀一と共に捜査を開始。
やがて一触即発の抗争に巻き込まれることにー。
役所広司主演で映画化(2015年)
- 第69回日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門
- 「このミステリーがすごい!」2016年版国内編第3位
- 『本の雑誌』が選ぶ2015年度ベスト10第2位
『孤狼の血』ショートレビュー・注目ポイント

- 古き良きヤクザ映画の匂いに満ちたヤクザと刑事たちの仁義なき戦い
- ヤクザと繋がりのある問題刑事がヤクザの一大抗争事件に巻き込まれる
- 新人刑事、日岡秀一の変化と成長
古き良きヤクザ映画の匂いに満ちたヤクザと刑事たちの仁義なき戦い
この作品の一番手っ取り早い説明は、『ヤクザ映画の金字塔、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズを彷彿とさせる』です。
荒々しく雑然とした時代の空気感。
滾る血と欲望と暴力の匂い。
泥臭さと狡猾さがぶつかり合う激しい抗争。
そして、舞台となるのは昭和の広島・呉原。
全体的にかの名作を思い起こさずにはいられない、古き良きヤクザ映画を感じる作品です。
本作は映画化されており先に映画版を観たのですが、どちらも秀逸。
ヤクザ作品はどうしても仁義シリーズと比べてしまうんですが、本作は仁義シリーズのファンも目をみはる作品じゃないかと思います。
ヤクザと繋がりのある問題刑事がヤクザの一大抗争に巻き込まれる
一般的なヤクザ作品と異なる点は主人公大上章吾が刑事であること。
ただ、大上はヤクザよりもヤクザな『要注意人物』。
ヤクザ絡みの問題を次々解決する剛腕さを評価されつつ、裏ではヤクザとの癒着や素行の悪さを問題視されています。
その大上の元に清廉潔白な新人刑事、日岡秀一が配属されます。
何もかも対照的な二人は失踪したヤクザのフロント企業『呉原金融』の経理を捜索することに。
なぜ経理は姿を消したのか?
失踪事件はヤクザ同士の抗争にどう影響するのか?
大上が握っているヤクザや警察内部の秘密とは?
警察・ミステリー小説のような謎解き要素も見どころです。
新人刑事、日岡秀一の変化と成長
酸いも甘いも噛み分けたベテラン刑事・大上と、現場の現実を知らない新米刑事・日岡。
最初、日岡は大上が行ってる非合法な捜査方法に疑問や不満を募らせていきます。
しかし、常に自分達も死と隣り合わせの現実の中で、自身の価値観や大上への見方に変化が生じます。
本作はそんな新人、日岡の成長譚としても見ることができます。
映画の配役は大上が役所広司で、日岡が松坂桃季。
特に映画では終盤、別人のように頼もしくなった松坂の姿が印象的です。
役所広司演じる大上のキャラクターも魅力的。
粗暴であちこちに敵を作り、でも同じくらい人に慕われている。
物語内の時間はほんの数ヶ月ですが、大上という孤高の無頼漢の余熱は視聴後も胸に残ります。
『孤狼の血』作品情報

主な登場人物・人物相関図

図を見ると分かる通り、抗争する組織は主に仁正会系列 vs 尾谷組。
ポイントは大上刑事が仁正会系列の瀧井銀次と尾谷組の若頭一ノ瀬守孝、双方に通じていること。刑事でありながら抗争の最重要キーパーソンの一人となります。
詳しい登場人物 まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるためなるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてもらえたらと思います。
※ 抜けている人物がいる可能性があります。
※ オーディオブックでの視聴のため、漢字表記は公式かwikipediaを参照。未確認のものはカタカタ。
| 広島県警 | |
|---|---|
| 大上章吾 | 捜査二課暴力団係班長。44才。通称『ガミさん』 |
| 日岡秀一 | 二課。広島大学出身。25才。 |
| イツキ マサナリ | 二課課長。 |
| 友竹啓二 | 暴力団係係長。 |
| 土井秀雄 | 暴力団係班長。加古村組に顔が広い。 |
| ササヤ マナブ | 知能犯係係長。 |
| カラツ | 二課暴力団係。ヘビースモーカー。 |
| タカスカ | 同上。27歳で結婚。 |
| シバウラ | 同上。 |
| セウチ | 同上。恐妻家。 |
| クリタ | 同上。最古参。 |
| ジンナイ ヒロユキ | 一課。上早稲事件担当。 |
| 毛利克志 | 署長。通称『ワカ』。 |
| 嵯峨大輔 | 県警警視。機動隊時代の日岡の上司。 |
| 仁正会系列 | 仁正会系列 |
|---|---|
| ワタフネ コウスケ | 仁正会会長。旧ワタフネ組組長。 |
| ミゾグチ アキラ | 仁正会理事長。旧ワタフネ組若頭。 |
| ササヌキ | 同会本部長。理事長と犬猿の仲。 |
| 五十子正平 | 五十子会会長。仁正会副会長。 五十子会は仁正会下部組織。 |
| アサヌマ シンジ | 同会若頭。 |
| 吉原圭輔 | 同会幹部。舎弟ナガセ。 |
| 金村安則 | 同会若頭 (過去) |
| タカギ コウスケ | 同会組員(過去) |
| 加古村猛 | 加古村組組長。加古村組は五十子会下部組織。 |
| 野崎康介 | 同組若頭。呉原金融の実権をもつ。 |
| ワヤマ ヤスシ | 同組幹部。 |
| 苗代広行 | 同組組員。喧嘩は加古村組一番。 |
| ワタセ タク | 同組組員。 |
| クボ タダシ | 同組組員。上早稲二郎を呉原金融に勧誘。 |
| ソウリョウ タクヤ | 同組組員。 |
| 吉田滋 | 同組組員。アキコを口説く。 |
| 上早稲二郎 | 同組のフロント企業「呉原金融」経理。失踪。 姉潤子。 |
| 瀧井銀次 | 瀧井組組長。大上章吾の盟友。妻洋子。 仁正会幹事長。瀧井組は仁正会下部組織。 |
| サガワ ヨシノリ | 同組若頭。瀧井の右腕。 |
| 尾谷組 | |
|---|---|
| 尾谷憲次 | 尾谷組組長。68才。横田組組長殺害事件で服役中。 伝説の博打打ち。 |
| 一之瀬守孝 | 同組若頭。30代半ば。 大上章吾とは昵懇の仲。 |
| 備前芳樹 | 同組幹部。クラブ『シャレ』を経営。 |
| ヤジマ タカヒロ | 同組幹部。 |
| タチイリ ゴウタ | 同組幹部。 |
| 柳田 タカシ | 同組組員。「リコ」のママの男。 |
| 山内タクヤ | 同組組員。破門。 |
| ミノル | 同組組員。 |
| セキヤ | 同組組員。 |
| ササモト | 同組組員。 |
| 永川恭二 | 同組組員。 |
| ナガタ コウタ | 同組組員。 |
| ノヅ ヨシオ | 尾谷憲次の舎弟。引退。 |
| 賽本友保 | 尾谷組若頭(過去) |
| その他 | |
|---|---|
| 高木里佳子 | クラブ『リコ』のママ。尾谷組タカシの恋人 |
| アキコ | 大神の行きつけの店、小料理屋『しの』の女将。 |
| カツさん | たばこ屋。孫のシンジは加古村組準構成員。 |
| 高坂隆文 | 安芸新聞社報道部記者。『ヌキのコウサカ』 |
| ヤモト タカユキ | 失踪した上早稲二郎の元同僚。 |
| イソガイ コウジロウ | 呉原金融の金主。 |
| フクイ サキチ | 呉原金融の社長。 |
| ヒロセノリヒサ | 呉原金融の借金を苦に自殺。 |
| ウメハラサ ブロウ | ウメハラ組組長。横田組幹部によって射殺。 |
| ヨコタ | ヨコタ組組長。ウメハラ組組長を射殺後、報復で射殺される。 |
| ヤマウチ タクヤ | ウメハラ組長射殺実行犯の一人。元尾谷組組員。 |
| ゼンダ シンスケ | 漁船『シンゼンマル』船長。上早稲失踪に関与? |
| キムラ カオル | 漁船『シンゼンマル』船員。 |
| ナカイ トモヤ | 漁船『シンゼンマル』船員。 |
専門用語・隠語
| S(エス) | 警察の協力者・内通者・情報屋。 |
| デコ助 | ヤクザが『警察』を指す隠語、蔑称。 |
| 檀家回り | 警察が使う隠語。継続的に情報提供を頼んでいる一般人の協力者から情報を集めること。 |
| うたう | 取り調べなどで警察に事実を告白すること。 |
| 札 | 捜査令状。 |
| ハト | 通信手段をもつ警察内部にいるヤクザの協力者。 |
| 弁当 | 執行猶予があること。 |
タイトルの意味/由来
特にネタバレ的な要素は含んでません。
『狼』は大上章吾と名前がかかってますし、大上自身を表してると思われます。
作中、事件を追う大上の姿と獲物を狙う狼の姿を重ねる描写があったり、『孤狼』は大上の組織に阿らない気質と重なります。
また、作中、大上が使ってる『狼柄のジッポー』がちょっとしたキーアイテムになってます。
大上はプロローグから狼柄のジッポーを使っていて、7章でも新たに別の狼柄のジッポーを購入。
この2つ目のジッポーは終盤でもフィーチャーされ、表紙に描かれてるジッポーはおそらく2つ目のものと思われます。
『孤狼の血』の『血』は説明するほどではない気がしますが、あえて書くなら『大上が流す血』を暗示してるんじゃないかと思います。
シリーズ・読み順・映画について
全3部作です。
audibleでは全作品配信されており、分かりやすくタイトルに『第◯弾』と記載されてます。
『孤狼の血(2015)』
『凶犬の眼(2018)』
『暴虎の牙(2020)』
映画は記事編集時点で2作公開。
『孤狼の血(2018)』
『孤狼の血 LEVEL2(2021)』
映画『孤狼の血』はほぼ原作がベースになってますが、『LEVEL2』は完全オリジナルのストーリーです。
現状、自分は小説は1作目のみ、映画は両方観ました。
全部視聴してないのでアレですが、この作品はなるべく刊行順通りに視聴した方がいいシリーズだと思います。特に映画はストーリーが続いてるわけではないですが、一作目からがおすすめ。
映画or小説の場合は、しいて言うなら小説で、どちらが先でも問題ないと思います。
『孤狼の血』ナレーションについて

ナレーションは『吉開 清人』氏一人。
シリーズ続編『凶犬の眼・暴虎の牙』も担当されてます。
出身を確認したら福岡の方のようですが、荒々しい広島弁が堂に入っています。
登場人物が多く、その多くはヤクザ者という属性が近い中、演じ分けが見事でした。
よく考えるとかなり難しいことを、自然にこなしてると思います。
▼ 誤りに気づいた漢字メモ。
| 誤 | 正 | |
|---|---|---|
| 追従笑い | ついじゅうわらい | ついしょうわらい |
2箇所ほど出てきました。意味は『機嫌をとるように笑うこと』。
確認したら『追従』には『ついじゅう/ついしょう』どちらの読み方もありますが、『追従笑い』の場合は『ついしょうわらい』になります。
あとがき

自分が『仁義なく戦い』を観たキッカケは小説家 西加奈子氏の『ミッキーかしまし』というエッセイでした。
このエッセイの中で、西加奈子さんは『仁義なき戦い』にハマっててよく物真似をするという話をしてます。
その話を聞いて自分もすぐに『仁義』シリーズを鑑賞。虜になりました。
この作品の著者(柚月裕子氏)も女性で、意外と女性にもヤクザ映画のファンは多いのかもしれません。
| 著者 | 柚月裕子 |
| ナレーター | 吉開 清人 |
| 再生時間 | 10 時間 53 分 |
| 発行年 | 2015 |
| 配信日 | 2017/02/10 |
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