『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈 著)をAudibleで聴いたので作品内容や注目ポイントを紹介します。
▽ イメージ画像付きであらすじを紹介
画像は私的/商用利用可能な画像生成AI(AdobeFirefly)やフリー素材を使用して作成しています。
ノスタルジーきらめく青春小説 × 孤高の少女 成瀬
『島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う』
マイペースで何でもできて、周りからちょっと浮いてる中学二年生、成瀬あかり。
成瀬はいつもスケールの大きなことを言い、突飛な言動で周りを驚かせる。
そんな成瀬が8月で44年間の歴史に幕を閉じる西武大津店に毎日通うという。
幼馴染である私、島崎の務めは『成瀬あかりを見続けること』。
『シャボン玉を極める』
『200歳まで生きる』
『期末で500点満点を取る』
これまでも数々の成瀬史を目撃してきた私は今度の宣言も見届けるつもりだ。
そして、『西武プロジェクト』を敢行後、成瀬はまた変なことを言い出した。
『島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う』
お笑いの頂点 ー 日本最大の漫才大会 M-1。
そのM-1に私と一緒に出場すると言うのだ。
こうして、ただの見届け人だった私は、成瀬と共にお笑いの舞台に立つこととなる。
『成瀬は天下を取りにいく』ショートレビュー・注目ポイント
基本は上記『作品紹介画像』と同じですが、画像に盛り込めなかった内容についても触れてます。
※重要なネタバレなし
有言実行するけど、貫徹しない(こともある)主人公
成瀬はまさに『主人公』らしく、大胆な夢を決然と宣言します。
ワンピースの『海賊王に、オレはなる!』のように。
そして、ルフィーのように有言実行しますが、意外と初志貫徹、というわけではなく、コロコロとやりたいことが変わったりもします。
↓そんな成瀬の性格をよく表してる成瀬と島崎のやりとり。
成瀬がいうには『大きなことを100個を言って、一つでも叶えたらあの人すごい』になると言う。
だから、日頃から口に出して種を蒔いておくことが重要なのだそうだ。
それはホラ吹きとどう違うのかと尋ねたら、成瀬はしばらく考えた後『同じだな』と認めた。
1章『ありがとう西武百貨店』
この信条にはしなやかな芯の強さを感じますし、他の主人公とは一味違うユニークなポイントだと思います。
『物語が人が動かす』以上に『人が物語を動かす』ストーリー
小説には設定やアイディアの比重が大きいタイプと、キャラクターの存在自体の比重が大きいタイプがあると感じます。
言わば、物語がキャラを動かしてるか?キャラが物語を動かしてるか?
それでいうと本作は完全に後者。『成瀬あかり』というキャラクターがいて、全ては『彼女だから生まれた出来事であり、彼女がいなかったら存在しない物語』という感が強いです。
幼馴染の島崎はそんな成瀬の言動を楽しみ、成瀬を見ることを自分の役目としています。
言うなれば『成瀬ウォッチャー』。
読者もそんな島崎とシンクロして、成瀬の姿を追い続けたい気持ちにさせられます。
淡い過去の『ノスタルジー』と眩しく刹那的な『今/青春』を感じさせる連作短編集
本作は6編を収めた連作短編集です。
『ありがとう西武大津店』では地元で長く愛された西武百貨店の閉店、
『階段は走らない』では(成瀬の地元の)大人たちの同窓会、
と『過去の郷愁』を感じさせるテーマ。
『膳所から来ました』や『レッツゴーミシガン』では友情、恋愛など限りある学生時代の『今』が描かれています。
『過去のノスタルジー』と『今この瞬間の青春』、この2つの時間が混在してる世界観、雰囲気も本作の特徴だと思います。
著者のデビュー作にして『第21回本屋大賞(2024)』を受賞
処女作ではないようですが、本作は著者宮島氏のデビュー作。
既存のファンなどいない状態でここまで話題になり、小説界のM-1と言える『本屋大賞』を受賞したことは快挙というほかありません。
元々、1章の『ありがとう西武大津店』を短編として書き上げ、この短編で他の賞も多数受賞してるとのことです。
処女作やデビュー作は『作品と著者の距離が近い』とよく思うんですが、著者は本作の舞台である滋賀県大津市在住だそうです。
『成瀬は天下を取りにいく』作品情報
主な登場人物・人物相関図
![](https://guideandreviews-library.com/wp-content/uploads/2024/06/narusehatenkawotoriniiku-mm-soukanzu-1024x922.jpg)
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるため、なるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてください。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。
1章『ありがとう西武大津店』 | |
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成瀬あかり | きらめき中学校二年。陸上部。母は西武大津店と同い年。 |
島崎みゆき | 成瀬と同じマンションに住む幼馴染。 『横浜生まれの母は滋賀を露骨に見下している』 |
遥香 | みゆきの友人 |
瑞音 | みゆきの友人 |
タクロー | snsで成瀬を気に掛けるアカウント |
杉山 | 西武ライオンズの栗山に似てる同級生 |
オーロラソース | 人気お笑い芸人のマヨネーズ隅田、ケチャップ横尾のコンビ |
3章『階段は走らない』 | |
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稲枝敬太 | Web制作会社勤務。1977年生まれ |
吉嶺マサル | 敬太の小学校の同級生。弁護士 |
笹塚 拓郎 | 同上。小学校の時に引っ越して以来、音信不通 |
竜二 塚本 今井 相澤 田中 | 同上。 |
安田 | 同上。さだまさし好きでケニアに移住 |
4章『線がつながる』 | |
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大貫かえで | 膳所高校1年。成瀬と同じ小学校 |
高島央介 | 同上。オタク風 |
大黒悠子 | 同上。かえでの友人 |
須田直也 | 同上。東大志望 |
凛華・鈴奈 | 成瀬とかえでの小学校の同級生。成瀬を嫌う |
5章『レッツゴーミシガン』 | |
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西浦 航一郎 | 広島・錦木高校2年。かるた大会出場。成瀬に惹かれる |
中橋 結希人 | 同上。恋多き航一郎の友人。3年の桃谷先輩に憧れる |
大黒悠子 | 同上。かえでの友人 |
須田直也 | 同上。東大志望 |
凛華・鈴奈 | 成瀬とかえでの小学校の同級生。成瀬を嫌う |
一部、実在する芸能人の名前も登場します。
実在の人物 | |
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アンタッチャブル | M-1グランプリ2004で優勝したお笑いコンビ |
ミルクボーイ | M-1グランプリ2019で優勝したお笑いコンビ |
みうらじゅん | イラストレーター、タレント |
さだまさし | 歌手 |
タイトルの意味・由来について
本作には『成瀬は天下を取りにいく』と同タイトルの短編は含まれていません。
ただ、内容的に『膳所からきました』からつけられたタイトルだと考えられます。
『膳所からきました』は成瀬と幼なじみの島崎がお笑いの頂点、M-1で優勝を目指す話。
つまり、『天下を取りにいく』は『お笑いの天下を取りにいく』という意味です。
お笑い業界では突き抜けて確固とした存在になることを『天下をとる』と表現することがあり、慣用的なフレーズになっています。
細かいことを言うと、『天下』は『国民的なゴールデン番組のMC』などのイメージがあり、『賞レース優勝』で使われるイメージはあまりないかもしれません。
『成瀬は天下を取りにいく』ナレーションについて
ナレーションは『鳴瀬 まみ』氏一人。
オーディオブックはナレーションの印象の影響が大きく、とりわけ本作は作風的に重要だと思います。
主人公の個性的なキャラクターが作品の肝なので。
鳴瀬氏はその『重役』を果たし、成瀬のキャラをより魅力的に感じさせるナレーションだったと思います。奇しくも名前も主人公と同じ『なるせ』。
レビューも記事作成時点で4.7と高評価です。
ちなみに本作はAudibleだけではなく、audiobookの方でもオーディオ化されてます。
audiobookの傾向通り、小説作品は多数のナレーターで構成されていることもあり、両者の印象はだいぶ異なります。
どちらもサンプル音声が聴けるので、サブスク未登録の場合は聴き比べて、どちらで聴くか決めるのがいいかと思います。
あとがき
2024年最注目作品となった本作。
内容もさることながら、まずガワの部分、『パッケージ』の秀逸さが光ってると思います。
キャッチーなタイトルと人気イラストレーターによる美少女イラストの表紙。
(この点は前年の本屋大賞受賞作(『同志少女よ、敵を撃て』)に共通してます)
加えて、短編で読みやすいボリューム感。
ヒキが強く手に取りやすい、なおかつ、内容もイメージ通りで裏切らない。
著者自身は『売れるかどうか手応えはなかった』といったコメントをしてますが、売れるべくして売れた感があるなと思います。
著者 | 宮島未奈 |
ナレーター | 鳴瀬 まみ |
再生時間 | 5 時間4 分 |
発行年 | 2023 |
配信日 | 2024/04/05 |