夕木春央『方舟』(2022)。
謎の地下建造物の中で起こる奇妙な殺人事件を描いたミステリー小説です。
ここで死ぬべき殺人犯は誰だ?
謎の地下建造物『方舟』に10人の男女が閉じ込められ、殺人が起こった。
浸水により脱出のタイムリミットは一週間。『方舟』の構造上、脱出には一人の犠牲が必要。
残りの9人は殺人犯を生贄とすべく、命懸けの犯人探しが始まる。
本作はなんといっても”衝撃的な結末”が発売当初から話題でした。
通常、『エピローグ』は事後の余韻的な印象がありますが、この作品は『エピローグ』こそ大事件。
『エピローグのインパクト』で言ったら間違いなくミステリー史上随一だと思います。
だいぶハードルは上がってますし、ここでも上げてますが、それでもラストはハッとさせられること必至です。
ラストだけでなく基本的な設定もユニークです。
『方舟』に偶然居合わせたのは知人同士の男女7人と初対面の家族3人。
この10人が突然の地震によって閉じ込められ、さらに予期せぬ殺人が起きます。
その上、浸水も始まり、脱出するためには『方舟』の構造上、一人が犠牲にならないといけない、
と、やや特殊すぎる状況かもしれませんが、設定として面白いです。
『生き残りを賭けた一種のデスゲーム × クローズドサークル(隔絶された環境での殺人事件)』
この二つが組み合わされることで、
→ 生き残るためには犠牲が必要
→ 殺人犯を犠牲にすべき
と、謎解きに強い必然性と切迫感が生まれます。
意外な結末ばかり注目されがちですが、大元の設定や謎解きの展開にもキラリと光るアイディアが散りばめられてます。
『方舟』ショートレビュー・注目ポイント

一つ目がそのまま『タイトルの意味・由来』の説明になってます。
- 旧約聖書『方舟』の逸話とストーリーの関連性(タイトルの由来)
- 『方舟』内で殺人が起こることが不可解な理由
旧約聖書『方舟』の逸話とストーリーの関連性(タイトルの由来)
舞台となる『方舟』は元々宗教団体(か過激派)の所有物だったと目される謎の地下建造物です。
『(ノアの)方舟』というと、次のエピソードが有名。
- 旧約聖書 創世記 の逸話。
- 神は人類の愚かさに怒り、大洪水を起こした。
- 神は敬虔なノアに方舟を作らせ、船に乗ったノアの家族とあらゆる動物のつがいは助かった。
数々のフィクションで取り扱われ、本作も当然聖書の『方舟』がモチーフになっています。
- 山奥に存在している。聖書:アララト山。
- 三階建てで小部屋が沢山ある構造
- (方舟にいる人数は異なる。聖書8人。『方舟』10人)
また、旧約聖書の特徴は『罰する神』なので、建物内に拷問器具があることも方舟/旧約っぽいです。
(新約聖書でイエスが神になると一転『赦しの神』になる)
旧約的懲罰思考の強い新興宗教なんて想像するだけで恐ろしい…。
そして、一番のポイントは逸話と同じく天災(洪水/地震・浸水)に見舞われること。
聖書では洪水がひいてノア達は助かりましたが、『方舟』では水が満ちていき、何人が助かるのか?
モチーフと絡めると、『男女のつがいが生き残れるのか?家族の3人が助かるのか?』など考えさせられます。
ただ、あまり事件と『方舟』の関連性など宗教方面への深堀りは期待しない方がいいです。
自分は勝手にそういう展開を期待して空回りした感じになりました。
力点が置かれてるのはあくまで『方舟内で起こった殺人と謎解き』です。
『方舟』内で殺人が起こることが不可解な理由
死体の発見後、推理を主導するのは主に主人公の越野柊一とその従兄弟、篠田翔太郎です。
翔太郎はプロフィール的には無職ですが、『フラッと海外に行き大金を稼いでくる』有能キャラ。
ある意味『方舟』と同じくらい謎な存在ですが、彼の人物像も特に深堀りされません。
あまりに突発的な殺人はそもそも動機が不可解。
なぜなら、方舟から脱出するためには一人の犠牲が必要だから。
つまり、一人を殺すとその分、殺人犯自身が犠牲になる確率が上がってしまう。
極端な話、自分以外を殺してしまうと確実に自分も助かりません。
そんな状況で、なぜあえて殺したのか?
読者は柊一と翔太郎の視点で、この奇妙な殺人の謎を追っていきます。
『方舟』作品情報

簡単なあらすじ
9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?
大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。 だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。
タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
『方舟』amazon
主な登場人物・人物相関図

方舟に閉じ込められたのも作品全体の登場人物もほぼこの10人のみです。
詳しい登場人物まとめ
オーディオブックだと頭に入ってこない事があるためなるべく全人物メモしてます。同様の方がいたら参考にしてもらえたらと思います。
※抜けている人物がいる可能性があります。
※オーディオブックでの視聴のため、未確認の表記はカタカタ。漢字は主に公式かwikipedia参照。
| 越野柊一 | 元登山サークルメンバー。システムエンジニア。 |
| 篠田翔太郎 | 越野柊一の従兄弟。親の遺産を相続する。 |
| 西村裕哉 | 元サークルメンバー。アパレル系。過去に『方舟』を偶然見つけ、皆を誘う。 |
| 絲山隆平 | 元サークルメンバー。ジムのインストラクター。麻衣の夫。 |
| 絲山麻衣 | 元サークルメンバー。幼稚園の先生。隆平の妻。 |
| 高津花 | 元サークルメンバー。事務。 |
| 野内さやか | 元サークルメンバー。ヨガ教室の受付。 |
| 矢崎幸太郎 | 電気工事士。父親。 |
| 矢崎弘子 | 母親。 |
| 矢崎隼斗 | 息子。高校生。 |
| 越野柊一 | 元登山サークルメンバー。システムエンジニア。 |
| 篠田翔太郎 | 越野柊一の従兄弟。親の遺産を相続する。 |
| 西村裕哉 | 元サークルメンバー。アパレル系。過去に『方舟』を偶然見つけ、皆を誘う。 方舟内で1人目に死体で発見された被害者。 |
| 絲山隆平 | 元サークルメンバー。ジムのインストラクター。麻衣の夫。 |
| 絲山麻衣 | 元サークルメンバー。幼稚園の先生。隆平の妻。 犯人。 |
| 高津花 | 元サークルメンバー。事務。 |
| 野内さやか | 元サークルメンバー。ヨガ教室の受付。 2人目の被害者。首・頭部を切断された状態で発見される。 |
| 矢崎幸太郎 | 電気工事士。父親。 3人目の被害者。計画的に犯人を待ち伏せしようとしたところ返り討ちにあう。 |
| 矢崎弘子 | 母親。 |
| 矢崎隼斗 | 息子。高校生。 |
『方舟』ナレーションについて

ナレーターは山内 璃久亜氏一人。
抑制されたトーンで、そこはかとなく緊張感が漂う朗読が作品に合っていると思います。
篠田翔太郎の声はおそらく活字よりも『自信に満ちたデキる男』感が前面に出ている感じがします。
文章は些細なレベルですが、スッと理解しにくい単語がちらほらありました。
例えば、『変事(へんじ)』や『比(ひ)して』『厭(いと)おしい』など。
口語であまり使わない表現は、朗読だと脳内変換しくにいところがあります。
あとがき

意外すぎる『エピローグ』の結末は本当に最後の最後で色々考えさせられます。
小説の作りというより、その結末に至った登場人物の行動と思いについて。
そして、考えても一概に是非を決められず、ただ唸らされるばかりという感じです。
ミステリーの仕掛けとしては反則級だけど大方は反則ではないと納得できる絶妙なラインをついていると思います。
謎解きに関しては方舟の構造が絡むので、しっかり意識しないとついていけないかもしれません。
audibleで建築図が確認できるとより分かりやすかったと思います。
| 著者 | 夕木 春央 |
| ナレーター | 山内 璃久亜 |
| 再生時間 | 11 時間 15 分 |
| 発行年 | 2022 |
| 配信日 | 2023/02/10 |
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